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第4章 決死の脱出(2)
日期:2023-10-31 15:46  点击:294

 真っ黒に日焼けした顔は憤ふん怒ぬにゆがみ、筋張った手はいまにも殴りかからんばかりにわなわなと震えていた。ドレッバーもスタンガスンも縮みあがって、そそくさと逃げだした。それを老農場主が戸口まで追いかけていく。

「おい、返事はどうした! まだ聞いとらんぞ!」二人の背中に嘲ちよう笑しようまじりの声を浴びせた。

「あとで吠ほえ面かくなよ!」スタンガスンは怒りで顔から血の気が引いていた。「預言者と長老会議の決定に逆らえば、どうなるかはわかってるんだろうな。死ぬまで後悔するがいい!」

「主の御手がいまに鉄てつ槌ついを振り下ろすだろう!」年下のドレッバーも捨て台詞ぜりふを放った。「主は必ずあんたを懲らしめに来るからな!」

「だったらその前にこっちがおまえらを懲らしめてやる!」フェリアは激げつ昂こうして怒鳴り返すと、銃を取りに二階へ駆けあがろうとしたが、ルーシーが腕にすがりついて引き止めた。娘の手をようやく振りほどいたときには、すでに馬の蹄ひづめの音は遠ざかり、もはや追っても無駄だった。

「信心家ぶった悪党どもめ!」フェリアは額の汗をぬぐいながら吐き捨てるように言った。「ルーシー、おまえをあんなやつらに嫁がせるくらいなら、いっそ死なせたほうがましだ」

「わたしだって同じ気持ちよ、父さん」娘が迷わず答える。「でも、ジェファースンがじきに帰ってくるわ」

「そうだな、もう少しの辛抱だ。とにかく一日も早く帰ってきてもらいたい。ああいうやつらは、次になにをやらかすかわかったもんじゃないからな」

 実際にそのとおりだった。この闘志みなぎる農場主とその養女には、即刻誰かが救援に駆けつけてやらなければならない。長老会議の権威にこれほどあからさまにたてついたのは、この開拓地始まって以来のことだった。ちょっとした不用意な言動さえ厳罰に処せられるのだから、このような大胆不敵な反逆者がいかなる運命をたどるかは推して知るべしだ。富や地位がもはやなんの役にも立たないことは、わかりすぎるほどわかっている。これまでにも、フェリアに劣らず裕福で人望のあった者たちが何人も神隠しに遭い、その財産は残らず教会に没収された。勇敢なフェリアといえども、じわじわと頭上に押し迫ってくる得体の知れない恐怖に身の毛がよだった。はっきりと目に見える危険ならば、敢然と立ち向かうこともできようが、こういうとらえどころのない不気味な影に覆われていては、神経がすり減るばかりだった。それでも娘には不安を気取られまいと、事態を楽観的にとらえているふりをした。だが愛情深い娘は父親の心の動きに敏感だったから、本当は落ち着かない気持ちでいることを鋭く見抜いていたのだった。

 今回の反抗的なふるまいに対して、ヤングからなんらかの厳しいお達しがあることはフェリアも覚悟していたし、現実にそのとおりだったのだが、ただし、それは予期せぬ形で舞いこんだ。翌朝ベッドで目を覚ますと、上掛けのちょうど胸のあたりに、小さな四角い紙きれがピンで留められていたのである。そこには殴り書きの文字でこうあった。

〝改心のためにおまえに与えられた猶予はあと二十九日だ。それを過ぎたら──〟

 文章をあえてしめくくらず、突き放すように終わっているところが、どんな脅し文句よりも殺気立っていた。そもそも、この警告状はいったいどうやって部屋へ入ってきたのだろう。使用人たちは別棟で寝ているし、ドアや窓はすべて戸締まりしてあったというのに。そう考えると、ジョン・フェリアは動揺せずにはいられなかった。問題の紙きれはくしゃくしゃに丸めてしまい、ルーシーにはなにも言わず黙っていたが、胸に氷のかけらが突き刺さっているような心地だった。二十九日というのは当然、ヤングが決めた一ヶ月の期限の残り日数だ。神秘的な能力を持つ敵が相手では、力や勇気をどんなに振りしぼっても太刀打ちできないのではないか? 紙片を留めるため上掛けにピンを刺した手は、そこに寝ている者の心臓をひと突きにすることもできたはずだ。もしそうしていたら、こっちは誰に襲われたのか知ることもなく冷たい骸むくろとなっていただろう。


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