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第4章 決死の脱出(3)
日期:2023-10-31 15:46  点击:247

 すると翌朝には、さらにぞっとすることが起こった。父娘で朝食の席についていたとき、ルーシーが突然あっと叫んで頭上を指差した。なんと天井の真ん中に、燃えて炭になった棒で書き殴ったのだろう、二十八という文字が大きくのたくっていた。ルーシーにはその数字がどういう意味なのかわからず、フェリアも教えようとはしなかった。その晩、彼は銃を構えて夜通し警戒にあたった。怪しい人影や物音にはまったく気づかなかった。ところが朝になって家のなかを見まわると、彼自身の部屋のドアに、外側から二十七という数字がペンキででかでかと書かれていたのだった。

 そうして一日、また一日と過ぎていった。朝になると決まってどこかに、見えざる敵の書き残した数字が見つかった。それは一ヶ月という猶予期間があと何日で尽きるかの宣告だった。運命の数字はときには壁に、ときには床に、必ず目につく場所に記され、庭の門や手すりに小さな貼り紙として残されていることもあった。ジョン・フェリアが鋭く目を光らせているにもかかわらず、警告は毎日どこからともなく出現する。とうとう、それを目にするたび、迷信じみた底なしの恐怖に突き落とされるようになった。徐々に憔しよう悴すいし、落ち着きを失い、追いつめられた獣のようなおびえきった目つきに変わった。頼みの綱はただひとつ、ネヴァダから若き猟師が帰ってきてくれることだけだった。

 やがて二十だった数字は十五になり、十五はさらに十まで減ったが、ジェファースン・ホープからはなんの音おと沙さ汰たもなかった。彼の戻る気配はまったくないまま、不吉な数字だけが毎日ひとつずつ減っていく。街道に誰かが馬を駆る音が聞こえるたび、あるいは御者が馬に号令をかける声が響くたび、老農場主はようやく助けが来てくれたかと小走りに門へ向かった。しかし、とうとう五が四に、そして三になると、彼はすっかり意気消沈し、脱出はもはや不可能と絶望感に見舞われた。開拓地は周辺を山地に囲まれているため、その山岳地帯の地理に不案内なうえ、孤立無援とあっては、まるで手も足も出ない。しかも人の往来がある道は残らず厳重に監視され、非常線が張られている。長老会議の許可なくしては誰一人、通行を許されないのだ。もはや袋のネズミも同然、逃げ道などどこにも残されていないように思われた。それでも、娘にとって屈辱的な結婚は絶対に承服できないという信念は、びくともしなかった。そんなものに同意するくらいなら、いっそのこと命を絶ってしまおうと決めていた。

 ある晩、フェリアは一人きりで部屋にこもり、この窮地をなんとか切り抜けられないものかと、むなしく思案をめぐらせていた。すでにその日の朝、二という数字が家の壁に書き殴ってあった。明日はとうとう期限最終日だ。それを過ぎたら、いったいなにが起こるのだろう? 脳裏には漠然としたおぞましい想像がおびただしく飛び交った。自分がこの世を去ったあと、娘はいったいどうなるのだろう? こうして見えない網にからめとられたまま、どこにも逃げられず力尽きるしかないのか? おのれの無力さを思い知らされたフェリアは、テーブルに突っ伏してむせび泣いた。

 おや、あれはなんだ? 静寂のなかでかすかに響く、なにかをひっかくような音。低い小さな音だが、夜のしじまを貫いて、はっきりと聞こえてくる。玄関のほうだ。フェリアは忍び足で玄関ホールへ行き、耳をそばだてた。短い間があってから、再び抑えた音が繰り返された。誰かが木のドアをそっとたたいているのだ。秘密法廷の命令を受けて、刑の執行にやって来た真夜中の暗殺者か? それとも猶予期間の最終日だと警告するため、一という数字を書き残しに来た使者か? フェリアの神経は極度に緊張し、心臓はいまにも凍りつきそうだった。いっそひと思いに殺してくれ、と内心で叫びながら前へ突進すると、錠をはずしてドアを勢いよく開けた。


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