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第6章 ジョン・H・ワトスン博士の回想録(続き)(1)_緋色の研究(血字的研究)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337

第6章 ジョン・H・ワトスン博士の回想録(続き)

 取り押さえられるまで、男はすさまじいまでに激しく抵抗したが、もともと凶暴だったわけでも、私たちに危害を加えようとしたわけでもないようだった。もはやどんなにもがいても無駄だとわかると、にわかに相好を崩し、いまの格闘で怪我はなかったかと訊きいて私たちを気遣ったのである。そのあとで、ホームズにこう話しかけた。「おれはこれから警察へ連れていかれるんでしょう? 玄関の前に自分の馬車がありますから、足の縄をほどいてくれれば、自分で歩いていきますよ。昔とちがって目方が増えちまったんで、おれを担ぎあげるのはきっと骨が折れるでしょうからね」

 グレグスンとレストレイドは、ずうずうしいことを言うやつだな、とばかりに目配せし合ったが、ホームズはすぐに男の言葉を信用し、足首を縛っていたタオルをほどいてやった。男は立ちあがると、再び自由になった感覚をじっくり味わうかのように両足をいっぱいに伸ばした。いまでもはっきりと覚えているが、私は彼の姿をつくづく眺め、ここまでたくましい男にはめったにお目にかかれないぞ、と内心でつぶやいた。日に焼けた浅黒い顔には、強きよう靭じんな肉体にひけをとらない確固たる決意と剛胆さが満ちあふれていた。

「もし警察署長の椅子が空いてるなら、絶対にあんたが座るべきだよ」男はそう言って、私の同居人に惜しみない賞賛のまなざしを注いだ。「おれを追いつめた手際は実に鮮やかだった」

「きみたちも一緒にどうぞ」ホームズは二人の警部に言った。

「手綱はわたしが」レストレイドが御者役を買って出た。

「ありがたい。僕はグレグスン君となかに乗ろう。ワトスン博士、きみもだ。この事件に興味があるようだから、同行するといい」

 私は喜んで応じ、全員で階段を下りていった。つかまった男は逃げようとする気配はまったく見せず、おとなしく自分の馬車に乗りこみ、私たちもそれに続いた。レストレイドが御者台におさまって、馬に鞭むちをあてると、馬車はあっという間に目的地に着いた。スコットランド・ヤードの建物に入ったあとはまず狭い部屋へ通され、そこで取調官が容疑者と殺された被害者の氏名を書き留めた。その取調官は顔の青白い無愛想な男で、淡々と機械的に手続きを進めた。「被疑者は今週中に判事の前に出頭することになるが、ジェファースン・ホープ、その前に言いたいことはあるか? ただし、あらかじめ警告しておくが、おまえの発言はすべて記録され、不利な証拠として用いられることがある。わかってるな」

「言いたいことなら山ほどありますよ」ホープは一語一語嚙かみしめるように答えた。「ここにいる紳士方の前で、なにもかもすっかり話しておきたいんでね」

「裁判のときまで待ったほうがいいのではないか?」取調官が忠告をはさむ。

「おれが裁判にかけられることはないでしょう」ホープは言った。「いや皆さん、そんなにびっくりしないでください。自殺しようってわけじゃありませんから。おたくは医者でしたね?」彼は黒い目で眼光鋭く私を見た。

「そうだが」私は答えた。

「じゃあ、ここに手を当ててみてください」男は薄笑いを浮かべると、手錠がはまった手で胸のあたりを指した。

 私は言われたとおりにした。たちまち、やみくもに暴走する異常な鼓動が伝わってきた。その振動で胸壁が小刻みに震え、もろい造りの工場で強力なエンジンを作動させているかのようだ。部屋が静まりかえっているため、ぶんぶんと低くうなる音がじかに耳まで届いてきそうだった。


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