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第7章 結末(2)_緋色の研究(血字的研究)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 これが第一の収穫だ。次に庭の小道をゆっくりたどっていくと、たまたま地面の土は足跡がはっきりとわかる粘土質だった。きみにはただの踏み荒らされたぬかるみにしか見えなかっただろうが、僕のように訓練を積んだ人間が観察すれば、地面の足跡ひとつひとつから意味をくみ取れるんだ。そもそも探偵学において、足跡の研究ほど重要でありながら、なおざりにされている分野はないよ。幸いにして、僕は日頃からそれを重視し、実地訓練を重ねてきたから、いまでは第二の天性と言えるくらい足跡の見極めに長たけている。話を戻すが、あの庭の小道には警官が残した大きな深い靴跡にまじって、それより前に庭を通り抜けていった二人の男の足跡が見分けられた。上から警官の靴跡に踏まれてところどころ消えかかっていたから、二人の男のほうが先にそこを通ったのは明らかだ。こうして第二の手がかりが得られた。そこから推測されるのは、問題の空き家には夜のあいだ二人の訪問者があり、一人は歩幅から判断してかなりの長身、もう一人は小さなしゃれた深靴を履いているから流りゆう行こうの身なりをしているだろうということだった。

 この最後の部分が正しかったことは、家に入ってすぐに証明された。粋いきなエナメル靴を履いた男が床に倒れていたからだ。となると、もし他殺ならば、残る長身の男が殺人犯と考えていいだろう。死体にはどこにも外傷がなかったが、あの恐怖にゆがんだ表情からすると、おのれの死を予期していたにちがいない。心臓麻ま痺ひなどの突然の自然死だったら、あそこまですさまじい形相にはならないだろう。口のあたりを嗅かいでみると、かすかに酸っぱい匂いがしたので、毒を無理やり飲まされたのだと確信した。無理やりだと判断した根拠は、やはりあの憎しみと恐怖がまざまざと浮かんだ顔だ。僕はこうした結論を消去法によって導きだした。つまり、事実に符合する仮説はそれ以外にはありえないんだ。べつに驚くようなことじゃないさ。前代未聞の稀け有うな事件ってわけではないんだからね。犯罪史をひもとけば、無理やり毒を飲ませた前例はいくらでも出てくる。毒物学者なら、オデッサのドルスキー事件やモンペリエのルトリエ事件あたりを即座に思い浮かべるだろう。

 さあ、そうなると今度は、殺人の動機という大きな壁が立ちふさがる。奪われたものはなにもなかったから、強盗目的ではない。じゃあ政治的な反目か? それとも女性をめぐるいさかいか? これはけっこう難問だったが、最初から後者だろうとみていた。政治がらみの暗殺なら、手早く目的を遂行して速やかに逃走するはずだ。ところが、この殺人はたっぷり時間をかけておこなわれているし、部屋中に犯人の足跡が残っているから、犯行後も現場にしばらくとどまっていたと思われる。ここまで念の入った報復となれば、動機は政治ではなく個人的な怨えん恨こんと考えたほうがよさそうだ。あとで壁の血文字が発見されると、僕のなかではますます怨恨説が濃厚になった。あの文字が目くらましであることは火を見るより明らかだからね。もっとも、指輪が見つかったことで動機の問題はあっさりけりがついたわけだが。犯人は被害者にその指輪を見せ、すでに死亡したか、それに近い状態にある女性を思い起こさせようとしたにちがいない。僕があのときグレグスンに、クリーヴランドへ打った電報でドレッバーの過去について具体的な質問をしたかと尋ねたのはそういうわけなんだ。覚えていると思うが、していないという返事だったね。

 それから僕は室内をしらみつぶしに調べてまわった。その結果、思ったとおり犯人は長身だとわかり、さらにトリチノポリ葉巻を吸っていて、手の爪が長く伸びているという具体的な手がかりを得られた。床一面に撒まき散ちらされていた血液は、格闘の形跡がないのだから、犯人が興奮して流した鼻血だろうとにらんでいたが、血けつ痕こんを注意深くたどったところ果たしてそのとおりだったよ。犯人の足跡とぴったり同じ軌道を描いていたんだ。しかし、いくら激しく興奮しても、よほど多血質の人間でないかぎり、あんなに大量の鼻血は出ないだろう。だから、犯人はおそらく血気盛んな赤ら顔の男だろうと思い切った推論を出したんだ。正しかったことはのちに判明した事実から立証されたね。


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