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第7章 結末(3)_緋色の研究(血字的研究)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 空き家を出たあと僕が真っ先に取りかかったのは、本来それをやるべきグレグスンが怠った作業だった。クリーヴランドの警察署長に電報を打って、イーノック・ドレッバーの婚姻にまつわる事情を問い合わせたんだ。返信は決定的な内容だった。なんとドレッバーは、ジェファースン・ホープという昔の恋敵につけねらわれていると訴えて、警察に保護願いを出していたんだ。しかもそのホープなる男は現在ヨーロッパにいるという。さあ、これで謎を解く鍵かぎは手に入れた。あとは犯人をつかまえるのみだ。

 このとき僕の頭にはひとつの確信があった。それは、ドレッバーと一緒に空き家へ入っていったのは、やつを乗せてきた辻つじ馬車の御者にほかならないということだ。根拠を示そう。路上には馬がいかにも勝手に歩きまわったらしい跡が残っていたが、御者がそばにいればありえないことだ。では御者はどこにいたのか。家のなか以外に考えられないだろう? そして犯人が正気なら、すぐそばに第三者がいる状況で、わざわざ凶行に及ぶような愚かなまねはしないはずだ。即刻、警察へ通報されるに決まっているからね。最後にもうひとつつけ加えると、もしロンドンで誰かを尾行しようと思ったら、辻馬車の御者になるのが一番好都合なんだよ。こうしたもろもろのことを考え合わせ、ジェファースン・ホープはロンドンで辻馬車の御者に紛れこんでいるはずだという結論に達したのさ。

 犯行前から御者稼業だったとすれば、まだ辞めていないと考えるのが理にかなっているだろう。急に辞めたりしたらかえって怪しまれやしないかと不安に思い、当分は続けるはずだ。また、偽名を使っているとは考えにくい。本名を誰にも知られていない土地で、御者がわざわざ名を偽る必要はこれっぽっちもないからね。そこで宿無し少年の探偵団を総動員し、ロンドン中の辻馬車屋へ送りこんだ。そしてまんまと目的の人物を捜しあてたわけだ。あの子たちがいかに機動力を発揮したか、僕がそれをいかに敏速に活用したかは、きみもよく覚えているだろう。スタンガスン殺しはまったく予想外の出来事だったが、どっちみち避けられなかったと思うね。知ってのとおり、あの事件のおかげで僕は丸薬を手に入れることができた。あれはきっとあるはずだと予測していたんだよ。さあ、これですべての環わがそろい、一点の矛盾もない完かん璧ぺきな論理の鎖ができあがっただろう?」

「すばらしい!」私は感嘆のあまり勢いこんで言った。「きみの功績は世間に幅広く知らせるべきだ。事件の詳細を記録して、公表したらどうだい? きみにその気がないなら、ぼくが代わりにやるよ」

「好きなようにするといい、ワトスン。だがその前にこれを読んでごらん!」ホームズが新聞をよこして続けた。「ほら、ここだ!」

 それはその日の《エコー》紙で、ホームズが指差した欄には今回の事件に関する記述があり、内容は次のようなものだった。

 イーノック・ドレッバー氏およびジョゼフ・スタンガスン氏殺害の容疑で逮捕されたジェファースン・ホープの急死により、巷ちまたで吹き荒れていた興奮と熱気の嵐は突然終息を迎えた。これで事件の真相が隅々まで明かされることは永久になくなったが、信頼できる情報筋によれば、犯行の動機は恋愛とモルモン教がからんだ昔の色恋沙ざ汰たをめぐる私し怨えんとのこと。被害者は両氏とも若かりし頃はモルモン教徒だったと思われ、死亡した容疑者ホープもソルトレイク・シティの出身である。ともあれ、今回の事件でひとつ明言できるのは、わが国の警察がめざましい活躍を見せ、高い捜査能力をいかんなく発揮したということだ。外国人にとって、果たし合いをイギリスへ持ちこむべからず、恨みつらみは自国で晴らすべし、との良き教訓になるであろう。すでに公然たる事実であるが、このたび速やかに犯人逮捕にいたったのは、ひとえにスコットランド・ヤードの名刑事、レストレイド警部ならびにグレグスン警部の奮闘のたまものである。漏れ聞くところによれば、逮捕劇はシャーロック・ホームズなる人物の家でおこなわれたが、同氏も素人探偵なりに才能の片へん鱗りんをうかがわせたようなので、今後、優秀な二人の警部を師と仰いで研けん鑽さんすれば、両名に多少は近づけるのではないかと期待する。なお、今回の功績をたたえられ、両警部は近く表彰される予定。

「ほら、僕が初めに言ったとおりだろう?」シャーロック・ホームズは笑いながら快活に言った。「僕らの『緋ひ色いろの研究』は、終わってみればこのありさまだ。成果は両刑事の表彰だけだったよ!」

「いや、心配には及ばない」私はそう請け合った。「事件のことは細大漏らさず日記につけてあるから、いずれ世間に発表する。だがそれまでは、一人で成功に酔いしれるよりほかないだろうな。ホラティウスの詩に出てくるローマの守銭奴みたいにね。つまりこうだよ。『世間はわたしを非難する。しかし、わたしはわが家で箱のなかの金銀を眺めつつ自分を誇らしく思う』」


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