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第四章 禿げ頭の男の話(4)
日期:2023-11-07 16:12  点击:233
    その夜、庭を捜しましたが
    闖入ちんにゅう者の姿はどこにも見当らず、ただ窓の下の花壇に足跡が一つ残っているだけでした。その足跡がなかったら、私たちはあの狂暴で残酷な顔は、自分たちの想像力が造り出した幻影だと思ったことでしょう。しかし、ほどなく、私たちの身の周りで、秘密の力が働いていることを示すような、また別の、もっと明白な証拠が現われたのです。朝見ますと、父の部屋の窓が開いており、戸棚や箱の中は荒らされていて、死体の胸の上には『四つの署名』と走り書きした紙切れが留めてありました。これが何を意味するのか、また誰のしわざなのか、知る由もありません。何もかもひっくりかえしてあるのに、見たところ、父の持物には何ひとつ手をつけてないのです。 兄とわたしは、当然のことながら、この奇怪な事件は、父が一生つきまとわれた恐怖と関係があるに違いないと考えました。しかし事件は、私たちにとっていぜんとして全く謎に包まれたままなのです」 小男は語り終わると、水ぎせるに再び火をつけ、しばらくの間、もの思いに沈んだ表情でたばこをふかしていた。私たちはみんな夢中になって、この驚くべき話に耳を傾けていた。モースタン嬢は、父の死のくだりになると真っ青になり、一瞬私は、彼女が気を失うのではないかと思ったほどだった。しかし、サイドテーブルにあったヴェニス製の水さしから静かに水を注いで渡すと、彼女はそれを飲んでやっと元気をとり戻した。シャーロック?ホームズは輝く瞳を伏し目がちにしたまま、ぼんやりした顔つきで椅子にもたれていた。彼の方をちらりと見やった時、私は彼がよりによってこの日に、人生は退屈だなどとひどく不満めいたことをいったのを思い出した。少なくとも、今ここに、彼に精一杯知恵を絞ってもらわなければならない問題が現われたのだ。
 サディアス?ショルト氏は、自分の話が引き起こした効果に、明らかに得意の様子で、私たちを一人ずつ見やり、大きすぎるきせるをふかしながら話を続けた。
「兄と私は」と、彼はいった。「当然のことながら、父の話に出た宝のことで大変興奮しました。何週間も何力月も私たちは、隠し場所が分からないままに、庭の到る所を掘り起こしました。そのありかは、父が死ぬ瞬間に口まで出かかっていたと思うと、無念でやり切れません。父が取り出したじゅずを見ただけでも、隠された宝がどれだけ立派なものか見当がつきました。バーソロミュー兄とわたしはこのじゅずをめぐって議論しました。真珠は間違いなく、高価なものであり、兄はそれを手放したがりません。ここだけの話ですが、兄自身、父と同じ過ちを犯しかねなかったのです。彼はまた、もしじゅずを手放せば、噂の種になり、あげくの果てにはやっかいな羽目に陥ると考えていました。わたしは手をつくして兄を説得した末、モースタン嬢の住所を捜し出して、じゅずから取りはずした真珠を、一定の期間を置いて一つずつ送り、彼女に貧乏な思いをさせないようにする、こう決めたわけなのです」「ご親切なお取り計らいで」と、モースタン嬢は真顔でいった。「本当に有難うございました」 小男はとんでもないといわんばかりに、手を振った。「私たちは保管人というわけで」と、彼はいった。「少なくともわたしはそう考えておりました。バーソロミュー兄は全く別の見方をしてましたが。私たちは巨額の金を持っておりましたし、わたしはこれ以上ほしいとは思いませんでした。それに、若いご婦人にそんな卑劣なまねをするなんて、実に悪趣味というべきです。『悪趣味は犯罪につながる』フランス人はまことにうまいことをいうものです。兄とわたしはこの件に関してあまりにも考えが違っておりましたので、わたしは別居するのが最善だと思いました。そこで、例の年とった召使いとウィリアムズを連れて、ポンディシェリー荘を出たわけです。しかし、昨日になって、きわめて重大な事柄が生じたことがわかりました。宝が見つかったのです。それで、直ちにモースタン嬢に連絡をさしあげ、あとは私たちがノーウッドヘ出かけていって、自分等の取り分を請求するばかりになっています。わたしは昨夜、バーソロミュー兄に、こちらの考えを伝えておきました。ですから、喜んで迎えはしないでしょうが、待ち受けていることは確かです」 サディアス?ショルト氏は話し終ると、豪華な長椅子のうえで顔を引きつらせた。私たちは、この奇性な事件に生じた新たな局面に思いを馳はせながら、一様におし黙っていた。ホームズが最初に立ち上がった。
 

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