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第九章 連鎖が切れる(2)_四つの署名(四签名)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

「わたしが心配なのは、むしろサディアス・ショルトさんのことです」と彼女はいった。「他のことはどうでもいいんです。あの方は終始、ご親切でご立派な態度を示されました。この根も葉もない恐しい嫌疑を晴らしてあげるのは、わたしたちの義務ですわ」

  キャンバウエルを発つ頃はすでに夕暮であったが、家に着くともう真っ暗だった。わが友の本とパイプは彼の椅子のそばにあったが、当の本人の姿は見えなかった。書き置きでもないかと思って探したが、何も見当らなかった。

「ホームズさんは、外出されたのかね?」ハドスン夫人がよろい戸を降ろしに上がってきた時に、私はたずねた。

「いいえ、ご自分の部屋へいらっしゃってます。旦那さん、わたし何だか」と、彼女は一きわ声を低くして、「ホームズさんのお体のことが心配です」

「どうしてかね、ハドスンさん?」

「あの、少し変なんです。あなたがお出かけになってから、部屋の中を行ったり来たりしはじめて、足音が気にさわるほどでした。それから、何やらぶつぶつひとり言をいうのが聞こえ、玄関のベルが鳴るたびに階段の上へ出てきて、『誰かね、ハドスンさん?』と叫ぶのです。やがてご自分の部屋に入って、戸を閉めてしまったのですが、あい変わらず歩きまわっているのが聞こえます。具合が悪いんじゃなければいいんですが。熱さましでも持ってきましょうかといいましたら、恐い顔でこっちを振りむきましたので、あわてて逃げてまいりました」

「ハドスンさん、そんなに心配することはないでしょう」と私は答えた。「前にもこんなふうになったことがありますよ。ちょっとしたことが気がかりで、落着かないんでしょう」

 私はわれらの敬愛すべき下宿の女主人にできるだけさりげなく話そうと努めた。しかし長い夜の間、ときおり彼の鈍い足音を耳にするたびに、彼の覚めた精神がこうして無為を強いられていることにいらいらしているのではないかと思うと、私自身も不安になってくるのだった。

 朝食の時、彼は疲労でやつれてみえ、熱でもあるかのように両頬には赤みがさしていた。

「これじゃきみ、ぶったおれるぞ」と私はいった。「ひと晩中、部屋の中を歩きまわっていたね」

「大丈夫さ。眠れなかったんだ」と彼は答えた。「このいまいましい問題にはすっかり参ったよ。万事順調にいってたのに、つまらぬ障害につまずくなんて。犯人、汽艇ランチ、すべてのことが分かっているのに、ただ知らせがない。別の機関も動いているし、利用できる方法はすべて利用した。川は両岸くまなく探させたのに、連絡はこないし、スミスのかみさんも、夫の消息が分からないままだ。これじゃ、船を沈めたとしか考えようがないよ。だが、これにも反証があってね」

「あるいは、スミスのおかみが間違った船を教えたんじゃないかな」

「いや、そうじゃない。当たってみたら、そういう船が確かにあるんだ」

「船は上流へ向かったんじゃないか?」

「その可能性も考えた。捜索隊をくり出してリッチモンドまで調べている。今日何も連絡がなかったら、ぼくは明日自分で出かけていって、船ではなく犯人を探そうと思う。だが、きっと間違いなく連絡はあるさ」

 しかし、知らせはこなかった。ウィギンスからも他の連中からも、何の連絡もなかった。ほとんどの新聞に、ノーウッドの悲劇を扱った記事が出ていた。どれを見ても、不幸なサディアス・ショルトを悪あしざまに書いているようだった。しかし、明日検屍が行なわれるということを除けば、新しい情報は一つもなかった。

 夕方、私は二人の婦人に、不首尾に終った結果を報告するため、キャンバウエルへ出かけたが、帰ってみるとホームズが元気をなくして、ふさぎ込んでいるのに気がついた。何をたずねてもろくに答えようとせず、レトルトを火にかけて気体を蒸溜し、こちらの居たたまれなくなるような臭気を発生させる、ややこしい化学の実験に一晩中熱中していた。夜の更ける頃まで試験管のふれ合う音がしていたが、いぜんとして臭い実験を続けているらしかった。

 明け方になってはっと目を覚ますと、驚いたことに彼が、粗末な水夫服に厚地のジャケツをはおり、首には品のない赤いスカーフを巻いたいでたちで、ベッドの横に立っていた。

「ワトスン、川下へ行ってくるよ。いろいろ考えてみたが、方法は一つしかない。ともかく、やってみるだけの値打はあるんだ」

「それなら、むろんぼくも同行していいだろう?」

「だめだ。きみはぼくの代理としてここにいてくれた方が役に立つ。ぼくは行きたくないんだよ。今日は何か知らせがきそうだからね、昨夜はウィギンスの奴、落胆していたがね。ぼく宛ての手紙や電報は全部開封してくれ。もし連絡がきたら、きみの判断で行動してほしい。頼みを聞いてくれるか?」

「もちろんだとも」

「ぼくのほうへは、連絡はできないよ。どこへ行くか自分でも分からないからね。しかし、運がよければそう遠くまで行かずにすむ。戻るまでに、何らかの手がかりが掴つかめるだろう」

朝食の時刻までには、何の音沙汰もなかった。しかし、「スタンダード」紙をあけてみると、事件の新しい局面にふれた記事があった。


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11/28 16:31