『スモール、いいか、これはきわめて重要なことだ』と彼はついに口を開きました。『このことは誰にもいうな。近いうちにもう一度会おう』
二日後、彼は友達のモースタン大尉をつれて、真夜中に角燈をさげてあっしの小屋へやってきたのです。
『スモール、例の話をモースタン大尉に、おまえの口からじかに聞かせてほしい』
あっしは同じ話を繰り返しました。
『どうだ、嘘じゃなさそうだろう?』と彼はいいました。『やってみるだけの値打はあるだろう?』
モースタン大尉はうなずきました。
『いいか、スモール』少佐はいいました。『わたしはこの友人とよく話し合ってみたんだが、こういう結論に達したよ。つまり、このおまえの秘密はだな、結局、政府うんぬんの問題ではなく、おまえの個人的な問題なんだということだ。もちろん、おまえが適当と思う方法で処理していいわけだ。ところで問題は、おまえがその代償に何がほしいかということだ。わたしらとしては、条件について折り合いがつくなら、引き受けてもいい、少なくとも調べてみてもいい』
彼は冷静で無頓着な話しぶりを努めて装っていましたが、目は興奮と欲とで輝いていました。
『はあ、それについてはですね』こっちも冷静になろうと努めたのですが、相手と同じく興奮しながら答えました。『あっしのような立場にいるものに出来る取引は、たった一つしかありません。あっしが自由の身になれるようにしていただき、あっしの三人の仲間を自由にしていただきたい。そうしたら、あっしらはあなた方を仲間に入れて、五分の一の分け前をあげますから、それをお二人で山分けしてください』
『ふん!』と彼はいいました。『五分の一か! あまりぞっとしないな』
『一人五万ポンドになりますよ』とあっしはいいました。
『だが、自由の身になるとはどうやってだ! これは全く不可能なことだぞ』
『そんなことないです』あっしは答えました。『もう最後の段どりまで考えてあるんです。脱走の妨げとなっているのは、適当な小舟と、当分の間必要な食料が手に入らないってことです。カルカッタやマドラスには、役に立ちそうな小さなヨットや 帆船ヨールがたくさんありますよ。一艘、調達していただけませんか。あっしらは夜の間に舟に乗り込みますから、インド沿岸のどこかで、あっしらを降ろしていただけりゃ、それでそちらの役は終わるわけです』
『一人だけだったら』と彼はいいました。
『全員か、さもなければ全然やらないか、のどっちかです』とあっしは答えました。『わたしらは誓ったんですよ。わたしら四人は一緒に行動することになっているんです』
『ねえ、モースタン』と彼はいいました。『スモールは口の固い男だ。仲間を裏切ることはしないんだ。信用して大丈夫だよ』
『汚れた仕事だな』と相手は答えました。『だが、きみのいうように、金さえあれば将校の地位は失わずにすむね』
『よし、スモール』と少佐はいいました。『おまえと取引をしたほうがよさそうだ。むろん、手始めにおまえの話を確かめないといけない。箱の隠し場所をいえよ。そうすればわたしは休暇をとり、月に一度来る定期船でインドに渡って調査してみるから』
『そう急がれても困ります』むこうがかっかとする分だけ、こっちは冷静になっていいました。『三人の仲間の同意を得なけりゃなりませんよ。わたしらは四人一緒でないとだめなんです』
『ばかばかしい』と彼は口をはさみました。『三人の黒い奴らが、われわれの約束とどんな関係があるんだ?』
『黒でも青でも』とあっしはいいました。『連中はわたしの仲間ですから、一緒にやるわけです』
とにかく、この問題は解決して、二度目の話し合いにはマホメット・シング、アブドゥラ・カーン、そしてドスト・アクバーの全員が参加しました。あっしらはもう一度話しあって、ようやく合意に達したのです。こっちは将校たちにアグラ砦の一部の地図を与えて、宝が隠してある壁の場所に印をつけることになりました。ショルト少佐が話を確かめにインドヘ行くことになったのです。箱があったら、そのままにしておき、あっしらが何とかして乗りこむことになる、航海用の物資を積んだ小型ヨットを手配し、ラトランド島沖に止めておいて、それから軍務に戻るというわけです。モースタン大尉は休暇を願い出て、あっしらとアグラで落ち合い、宝を分配して、自分のと少佐の分を持って帰ります。こうしたことを、考えられるかぎりの、口でいい表わせるかぎりの、最も厳粛な誓いで約束しあったのでした。あっしは紙とインクを持って一晩徹夜して、朝までに四つの署名……つまりアブドゥラ、アクバー、マホメットとあっしの……を印した地図を二部こしらえました。