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一 シャーロック・ホームズ君(4)_バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3339

「おやおや、いやに自信たっぷりだね」

「いや、いとも簡単。戸口の段にその犬がいるんだよ。ほら、その主人がベルを鳴らして

いる……いや、ワトスン君、君は動かないでくれ。客は君と同業だから、君がいてくれる

と、都合がいいかもしれん。さあ、運命の幕があがるぞ、ワトスン君。玄関階段の足音が

一歩一歩、君の運命に近づいてくるのを聞いている。それなのに君には吉か凶かわからな

い。科学者ジェイムズ・モーティマー博士が犯罪専門家シャーロック・ホームズにいった

い何をきこうというのか? やあ、どうぞ」

 田舎医者の見本みたいな姿を想像していたので、私は入って来た客を見てびっくりし

た。ばかに背が高く、やせており、嘴 くちばし のように長い鼻で、鋭い灰色の両眼がぐっと迫っ

て金縁眼鏡の奥できらりと光る。医者らしくちゃんと正装しているものの、不精者 ぶしょうもの ら

しく、フロックコートの上衣はうす汚れ、ズボンには皺 しわ がよっている。まだ若いのにも

う背中が曲がっていて、顔をつき出し、どことなく慈愛ぶかそうなやさしい様子で歩いて

きたが、部屋に入るなりホームズの手にあるステッキに目をとめて、いかにも嬉しそうに

大声を出して走り寄った。

「ああ、よかった。よかった。ここへ忘れていったのか船会社だったか、どうもはっきり

しなかったんです。このステッキだけはどんなことがあっても失くせないものでしてね」

「贈り物ですね」ホームズが言った。

「ええ、そうなんです」

「チャリング・クロス病院から?」

「結婚のとき、二、三の友人から贈られたものです」

「おや、おや、こいつあいけない」ホームズは首を振った。

 モーティマー博士はちょっと驚いた様子で、眼鏡の奥で眼をぱちくりさせた。

「何がいけないんで……」

「あなたの話でわれわれの推理が少しばかり狂ったまでです。ご結婚のとき、でした

ね?」

「はあ、結婚して病院をやめることになりましたので、立会い医師になる望みをすっかり

捨ててしまいました。家庭を持たなければならなかったので……」

「さあ、さあ、われわれの推理もまったく間違ってたわけじゃないよ。で、ジェイムズ・

モーティマー博士……」

「いいえ、博士じゃないんです。ミスターで結構です。ただ王立外科医学会の一会員にす

ぎないんです」

「そして、明らかに精密な頭脳の持ち主で……」

「いや、科学を少しばかりかじっただけですよ。何といいますか、科学という未知の大洋

の岸辺で貝殻を拾ってるようなもんです。ところであなたがシャーロック・ホームズさん

とお見受けいたしますが、こちら様は……」

「親友のワトスン博士です」

「はじめてお目にかかります。お名前はホームズさんとご一緒にうかがっております。と

ころで、ホームズさん、あなたの頭には感心いたしました。こんなに長頭 ちょうとう で眼窩 がんか 上

の発達が著しい方にお会いできようとは思いませんでした。失礼ですが、ちょっとあなた

の顱頂縫合 ろちょうほうごう をすうっとさわらせてくださいませんか。塑造 そぞう の模型でもいいから人

類学博物館に出せば立派な陳列品になるんでしょうがねえ。お世辞をたらたら並べようと

いうのじゃありません。正直のところ、あなたの頭蓋骨がほしくてたまりません」

 シャーロック・ホームズはこれを制するように手で合図して、おかしな客を椅子へ招じ

た。

「あなたもご趣味のほうではずいぶんご熱心のようですが、わたしもそうでしてね」ホー

ムズは言った。「人さし指の様子からみて、ご自分で煙草をお巻きになるようですね。ど

うぞご遠慮なくおつけになって下さい」

 客は紙と煙草をとり出し、煙草を中におそろしく器用にまき上げた。その長い指は敏感

そうに絶えず震え、まるで昆虫の触角のようである。

 ホームズは黙っていた。だがときどき射るように放つ鋭い視線から、この奇妙な客に対

して彼が興味をもっているのが分った。そして、やっと彼は口を開いた。

「あなたが昨夜にひき続いて今朝もお出で下さったのは、ただ私の頭蓋骨を調べるためで

はないと思いますが……」

「ええ、ええ、いえ、もちろん、それも調べさせていただければ非常に嬉しいのですが、

ホームズさん、こうしてお伺いしましたのは、つまり私という人間があまり実行力のある

人間ではないのに、突然とんでもない重大事に出っ食わしたからなんです。思うに、あな

たはヨーロッパで第二の……」

「ほ、ほう! はばかりながら、その第一人者たる名誉をうけるのは誰です?」ホームズ

はいくらか語気 ごき を荒らげた。

「厳密な科学的精神の人というならば、ベルティヨン氏がまず当然、挙げられねばなりま

せん」

「じゃ、彼に相談なすったほうが、よかあありませんかな?」

「いや、厳密な科学的精神というならばと申したんで……しかし実際的解決の面では、あ

なたこそ群を抜いてらっしゃることは誰でもが認めております。うっかりして、ぶしつけ

なことを申しまして……」

「ほんの少し」ホームズが応えた。「ところで、モーティマー博士、こんなことでごたご

たするのはよして、いったい私に力を借してくれとおっしゃる問題は、はっきりいってど

んなものか、簡単にご説明願えませんか」


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