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三 難問(1)
日期:2023-11-09 15:48  点击:294

三 難問

 実をいうと、この最後の言葉を聞いて私はぞっとした。医師の声もふるえを帯びていた

から、彼もまた自分の話に深く心を動かされたらしい。ホームズも興奮のあまり身をのり

出し、いつも強く興味をひかれたときやるように、目をぎらぎら厳 きび しく光らせたのであ

る。

「はっきりと見たんですね?」

「見ましたとも。あなたを見てるくらいにはっきりと」

「それで誰にもお話しにならなかった?」

「話して何になりましょう」

「誰もほかに見た者がないとは、いったいどうして」

「足跡は死体から二十ヤード離れていました。まったく考えも及ばないことなんです。私

だってあの話を知らなかったら、やはり気づかなかったでしょうね」

「沼地には羊の番犬が沢山いるんでしょう?」

「むろんいますが、これはとてもそういった犬なんかでは」

「大きいとおっしゃいましたね」

「法外 ほうがい な大きさです」

「しかし死体には近づいていなかったんでしょう?」

「そうなんです」

「どんな晩でした?」

「しめっぽくて、冷たい晩でした」

「が、雨は降ってなかったですね?」

「ええ」

「並木路というのは、どんなのですか」

「高さ十二フィートくらいの《いちい》の古い生け垣が両側に密生して茂っていて、横に

抜けるのはむずかしいほどです。そのまん中に幅八フィートの路がついています」

「生け垣と路の間には何かありますか」

「ええ、両側に幅六フィートぐらいの芝生があります」

「その生け垣は、小門のところからでないと通れないわけですね」

「ええ、沼地のほうへ行く小門だけです」

「ほかにないんですね、出口は」

「ありません」

「とすると、並木路に行くには屋敷からか、沼地からくるその小門からかのふたつです

ね?」

「並木路のはずれにある《あずまや》を通ってもはいれます」

「サー・チャールズはそこまで行ってましたか」

「いいえ、五十ヤードも手前のところで倒れていました」

「そこでと……はなはだ重要なところですが、モーティマーさん、あなたが見つけられた

足跡は路にあって、芝生の上にはなかったんですね?」

「芝生には足跡はのこりませんよ」

「足跡は路の上でも、沼地へ出る門に近いほうにあったわけですね?」

「そうです。小門がわの路のへりのところに」

「なるほど、こいつぁきわめて面白いですね。もうひとつ、小門は閉まっていましたか」

「閉まって南京錠 なんきんじょう がかけてありました」

「門の高さは?」

「四フィートぐらいでしょう」

「じゃ、のり越えられますね?」

「ええ」

「門の近くに何か跡が残ってましたか」

「これといってべつになにも」

「こいつぁ驚いた! 誰も調べなかったんですか」

「いいえ、私が調べました」

「それでもなかった?」

「何もかもめちゃめちゃになってたんです。でもサー・チャールズは五分か十分、そこに

立っていたはずです」

「それはまたどうして?」

「葉巻の灰が二度落されてるんです」

「うまい! ワトスン君、この人も僕らの同志だよ。いや気に入りました。で、足跡はど

うなってました?」

「小石まじりの地面に一か所、足跡だらけのところがありましたが、ほかの者の足跡はな

かったと思います」

 じれったい、というふうにシャーロック・ホームズは膝を叩いた。


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