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四 サー・ヘンリー・バスカーヴィル(6)
日期:2023-11-09 15:55  点击:305

「ええ、われわれはそれをつきとめねばならないんですよ」

「いずれにしろ、僕の返答はきまっていますよ。ホームズさん、地獄の悪魔などいるはず

がありませんし、またこの世で僕が僕目身の屋敷へ帰るのを阻止できるものもありませ

ん。これが僕の最終返答だとお受け取りになって下さい」

 彼は黒い眉 まゆ をキッと寄せ、浅黒い顔を紅潮させた。バスカーヴィル家累代の焔 ほのお のご

とき気性が、この最後のひとりにまで受け継がれているのだ。

「それはともかく、お話し下すった事柄について、じっくり考える時間がありませんでし

た。ことの次第をいちどに理解し、決着をつけてしまうのはたいへんなことだと思うんで

す。僕の心が決まるまで、独りだけで静かに考える時間がほしいと思います。ホームズさ

ん、もう十一時半になりましたから、一応まっすぐホテルへ帰ることにします。それで、

二時にワトスン博士とご一緒にホテルまでご足労ねがって、食事をおつき合い下さいませ

んか。その折りには、この事件について僕の態度を、もすこしはっきり申し上げられると

思います」

「いいんじゃないか、ワトスン君」

「まったく好都合だ」

「じゃ喜んでおうかがいしますよ。馬車を呼ばせましょうか」

「いえ、歩いてゆきましょう。何だか頭がこんがらがっていますから」

「わたしも一緒に歩きますよ」モーティマー医師も賛成だった。

「じゃ、二時にお会いしましょう。ではまた オウ・ルヴォワール 、さよなら」

 ふたりの足音が階段を降り、玄関の扉の閉まる音をきいた。とみるや、ホームズの姿は

ものうい夢想家から、颯爽 さっそう たる活動家に豹変 ひょうへん した。

「ワトスン、靴と帽子をとれ! 早く、一刻を争うんだ!」

 ガウンのまま部屋に飛び込んだと思うと、秒を数える間にフロックコートで飛び出して

来た。階段をかけ降り、通りへ出る。モーティマー君とバスカーヴィルのふたりがオック

スフォード街に向かって二百ヤードばかり先を歩いてゆくのが見えた。

「走っていって呼びとめようか」

「とんでもない。お伴 とも は君ひとりで沢山だ、君さえ嫌でなければね。ふたりともなかな

か賢いよ。散歩にゃ快適な朝だからね」

 ホームズは足を速めて距離を半分にせばめたが、それからは百ヤード離れたまま後を

追って、オックスフォード街からリージェント街へと歩いた。一度、先のふたりが足をと

めて店のショーウィンドーをのぞきこんだが、ホームズもまた同じものをのぞきこむ。

 と、その一瞬あと、小さい喜び声を発した。彼の目の方向をたどると、男をひとり乗せ

たまま道の向う側に止まっていた二輪辻馬車がそろそろと同じ方向に走り出した。

「いたッ! ワトスン君。さあ行くぞ! 今のところ何もできないが、せめて顔なりと

も、とくと拝見しようじゃないか」

 そのとき、馬車の窓を通してまっ黒いひげもじゃの顔の中から見透すような鋭いふたつ

の目がわれわれに向けられたのを知った。間髪を入れず、幌 ほろ 前部の小窓がはね上げら

れ、馭者 ぎょしゃ 台に向って何事か命じると、馬車は狂ったようにリージェント街を疾走して

行った。ホームズは、やっきになって他の馬車を探したが、残念にも空車は見当らない。

やむなく、人馬の流れをわけて、まっしぐらに後を追って駈け出した。


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