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五 断たれゆく頼みの綱(3)
日期:2023-11-09 15:59  点击:244

「つけられてたって! いったい誰から?」

「残念ながら、僕にも、それが何者かは申し上げられないんです。あなたはダートムア近

辺の者か、または知人で、まっ黒いあご髯 ひげ をはやした者をご存じありませんか」

「知りませんね。ええっと、いや、いますよ。バリモア、サー・チャールズの執事の。こ

れがまっ黒いあご髯 ひげ をはやしてます」

「ほう! で、どこにいるんです、そのバリモアは」

「屋敷の留守番をしてます」

「そいつを調べなきゃなりません。本当に屋敷にいるのか。何かのことで、ロンドンに来

てやしないか」

「どうして調べます?」

「頼信紙 らいしんし を下さい。

《サー・ヘンリーの準備できたか》

 これでいいでしょう。宛先は、バスカーヴィル邸のバリモアとします。ところで、いち

ばん近い電信局はどこです? グリムペン……なるほど。じゃもう一本グリムペン電信局

長宛に打ちます。

《バリモア宛の電報は直接本人へ渡されたし。不在のときは、ノーサンバーランド・ホテ

ルのサー・ヘンリー・バスカーヴィルへ返電たのむ》

 これで夕方までには、バリモアがデヴォンシャーでちゃんと仕事をしていたかどうか、

わかろうというもんです」

「なあるほど」バスカーヴィルが言った。「ところでモーティマー先生、そのバリモアと

は誰なんです?」

「この男の父親もやはり屋敷の管理をつとめてましてね。彼で四代、代々邸の管理をして

いることになります。私の知ってる限りでは、バリモア夫妻とも、あすこいらでは最も評

判のいい人たちなんです」

「しかも、主人一家がいないわけだから、これといってすることもなく、至極 しごく のんびり

暮らしてるものと見えますね」

「確かにそうです」

「バリモアはサー・チャールズの遺志でいくらかもらいましたか」と、ホームズは聞い

た。

「ふたりとも五百ポンドずつ」

「ほ、ほう! ふたりは受け取る前からそのことを知っていたんですか」

「ええ、サー・チャールズは遺言のことを話すのがたいへん好きでしてね」

「そいつあ面白いですなあ」

「いや」とモーティマー医師がいった。「遺贈を受けた者を、誰彼なしに胡散 うさん くさい目

で見られてはこまりますねえ。現にこの私も千ポンドもらってるんですから」

「へえ! で、ほかには?」

「たいした額ではありませんが個人でもらった者は大勢いますし、いろいろの慈善団体も

受け取っています。残りは全部サー・ヘンリーのものです」

「残りというのはどれくらいですか」

「七十四万ポンド」

「そんなにあろうとは思わなかったですなあ」

 たまげてホームズは目をまるくした。


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09/30 23:26