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六 バスカーヴィル邸(1)
日期:2023-11-13 13:23  点击:234

六 バスカーヴィル邸

 約束の日、サー・ヘンリー・バスカーヴィルもモーティマー医師も、すっかり準備をと

とのえてやって来ていたので、三人は予定どおりデヴォンシャーへむけて出発した。

シャーロック・ホームズは馬車に同乗して駅まで見送りに来てくれたが、別れにあたっ

て、あれこれと指示や注意を与えてくれた。

「ワトスン君、今ここで僕がこの事件に対する意見や臆測めいたものを述べて、君に妙な

先入観を持たせたくないんだ。ただ、できるだけ詳しく事実を報告してほしいということ

だけだ。それによって推理をすすめるのは僕にまかしてもらいたいんだよ」

「どういうふうな事実だね」

「直接に関係のなさそうなことでも、なにかこの事件につながりのありそうなものだった

ら、何でも報告してほしいんだ。とくにサー・ヘンリーと近所の人たちとの交渉とか、

サー・チャールズの死についての新しい事実なんかだね。僕がここ二、三日の間にやった

調査は、どうも結果的にはまずかったようだがね。ただひとつ、確からしいのは、サー・

ヘンリーの次の相続人になる、ジェイムズ・デズモンドさんだが、あの人は温厚な中年の

紳士なんで、今度の尾行者とは無関係だと思うんだ。だから、この人だけは、われわれの

考慮からまったく除いてもいいと思っている。残るのは、沼地一帯に住んでいて、サー・

ヘンリーを実際に取り囲むことになる連中だね」

「どうだろう、まず最初にバリモア夫婦を追い出しては」

「とんでもない。そんな大へまをやっちゃいけないよ。もし夫婦が無罪だったら、残酷な

誤解になるし、もし彼らがやっていたとしても、彼ら自身の罪を自覚させる機会をみすみ

す捨て去るようなもんじゃないか。いや、いや、今のところふたりをわれわれの嫌疑者リ

ストに入れておくだけにしておこうじゃないか。それから屋敷には馬丁がいたはずだね。

それから沼地農夫がふたり。さらに、絶対に信頼のおける親友のモーティマー医師、さら

にわれわれは知らないがその夫人。また博物学者のステイプルトンとその妹、妹のほうは

まだ若いたいへん魅力のある女性だというじゃないか。ラフター邸にはフランクランド氏

ありで、この人物についちゃまったく未知数だ。その他、二、三の隣人たち。これらの人

物について、君は十分監視し、研究しなけりゃならんよ」

「ベストを尽くすよ」

「武器は持ってるだろうね」

「うん、持ってたほうがよさそうだから」

「そうだとも。ピストルは片時も離さないようにして、決して気をゆるめないようにね」

 先のふたりはすでに一等席を確保して、われわれの来るのを、プラットフォームで待っ

ていた。

「いいえ、何も変わったことはありません」ホームズの問に答えて、モーティマー医師が

言った。「ただ一つだけ確信をもって答えられるのは、ここ二日は絶対につけられなかっ

たということです。外出するときは、必ず前後左右に目を光らせていましたから、尾行で

もする者があったら、絶対に見逃しっこありません」

「ずっと、ご一緒だったんですね」

「ええ、昨日の午後以外は。というのは、私はロンドンへ来ると一日だけは雑事から離れ

て自分の楽しみのために費すことにしているので、その日を外科大学の博物館で過ごした

わけです」

「僕のほうは公園へ出かけて、都会人見物としゃれこみましたが」バスカーヴィルが言っ

た。「べつに何も困ったことなどありませんでしたよ」

「しかし、やはりそりゃ軽率でしたね」ホームズは頭を振りながら、深刻そのものの表情

だった。「ねえ、サー・ヘンリー、お願いですから、これからひとりで歩きまわらないで

下さいよ。でなきゃ、とんだ不幸がふりかからないものでもありませんよ。で、もひとつ

の靴は見つかりましたか」

「いいえ、とうとう出て来ませんでした」

「なるほどね、しかし非常に面白いことですねえ。それじゃ、お元気で……」

 ホームズがいったとき、汽車は静かにプラットフォームを滑りだした。「いいですか、

サー・ヘンリー、モーティマー先生が読んでくれた奇妙な伝説を忘れるんじゃありません

よ。暗くなってから沼地に出かけないこと、悪魔の力が暗躍してますからね」後を追うよ

うにつけ加えた。


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