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九 ワトスン博士の第二報告(1)
日期:2023-11-13 14:52  点击:228

九 ワトスン博士の第二報告

 沼地の灯

 十月十五日  バスカーヴィル邸にて

 親愛なるホームズ君。

 わが使命のはじめのうちは大したニュースもなくて、やむなく君を置き去りにした恰好

になったけれど、僕がおくれた時間をとり戻している最中なこと、今や事件もいろいろと

雲集 うんしゅう して、われわれにのしかかっていることを認めてもらわねばならぬ。この前の手

紙では、バリモアの窓の事件という肝心な点で筆を置いたが、今日は大なる錯誤でなけれ

ば、ちょっとばかり君を驚かすような書信をお目にかけるわけだ。事件はまったく僕の予

期しないほうに向いて行ったのだ。ある点ではこの四十八時間以内に、ますます明瞭に

なったけれど、またある点では、ますます複雑になっている。でも僕は一切を報告するつ

もりだから、後は君自身で判断するがよかろう。

 バリモアの後をつけた日の翌朝、食事の前に、僕は廊下を通って前夜バリモアのいた部

屋を調べてみた。彼は西側の窓から一心にのぞきこんでいたのだが、そこにはこの屋敷の

他の窓では見られぬひとつの特徴があるのに気がついた。……そこからは沼地のほうへの

眺望を、意のままに、どこよりも一番近く見おろすことができるのだ。そこからだと、う

まい具合いに木と木の間から真っすぐ見おろせるが、他の窓からだと、遠くにしか見られ

ない。この窓だけがバリモアの目的にかなうものとすれば、彼は沼地に、何物か、あるい

は何人 なにびと かが来るのを待ち受けていたにちがいない。

 その夜はひどく暗かったので、彼のほうから何かを見ようとしたとは、まず想像できな

い。とっさに何か情事の秘め事でもやるのだろうと考えついたものだ。彼が忍び足で歩い

て行ったことや、細君の不安な様子などを思い合わすと、どうもそうらしい。それに、あ

の男は田舎娘の気持につけこむくらいの容貌を備えているので、この説は大いにあり得る

わけなのだ。僕が部屋へ帰った後で聞こえたドアの音は、その内証の約束を果たすために

出ていったということになるかもしれない。

 朝食前にはこのように理論づけてみたので、そのまま書いておいたが、後になってみる

と、この理論にはなんの根拠もないことがはっきりしてしまった。だが、バリモアの忍び

歩きの真の解釈がどのようなものであろうとも、この件を、自分の心にだけ留めて、説明

のできる日を待つのは堪えがたいことだった。

 そこで、朝食後、サー・ヘンリーを書斎にたずねて、自分の見たことをすっかり話し

た。彼は期待したほどには驚かなかった。

「バリモアが晩になると歩きまわるのは知っていたのです。そのことで注意しようと思っ

ていました。二、三度、ちょうどあなたのおっしゃる時刻に廊下を往き来する足音を聞き

ました」

「それじゃ、毎晩あのおきまりの窓のところへ行くのでしょうね」

「たぶんそうでしょうね。とすれば、後をつけて、バリモアが何をねらっているのか見と

どけることができると思いますね。ご親友のホームズ先生がここにおられたなら、こんな

場合どうされるでしょうかね」

「あなたの今おっしゃったとおりのことをすると思いますよ。バリモアの後をつけて、何

をするか見るでしょうね」

「ではわれわれもふたりでやってみましょう」

「でも、きっと気づかれますよ」

「あの男はいくらか耳が遠いんです。ともかく一 いち か八 ばち かやって見ることですよ。今晩は

私の部屋で起きていらして、あれが通り過ぎるまで待っていましょう」

 サー・ヘンリーは嬉しげに両手をもんだ。こうした冒険は、荒野でのいくらか物さびし

い生活にとっては、明らかにひとつの慰めとして歓迎されるものだった。


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