日语学习网
九 ワトスン博士の第二報告(5)
日期:2023-11-13 14:53  点击:250

 これでひとつの小さな謎もすっきりしたわけだ。こんなやっかいな沼地では、ことの真

相を究明するのは大へんなことなのだ。ステイプルトンが、妹の求婚者にサー・ヘンリー

のような、またとなくふさわしい青年を得てさえ、相手に好意を抱き得なかったわけが、

こうしてわかったというわけだ。

 では今度は、もつれた糸束からたぐり出した、今ひとつの糸、あの夜ごとのすすり泣

き、バリモアの細君のあの泣きぬれた顔、それから執事バリモアが夜ごと西側の格子窓に

しのび寄る謎を解きほぐしてゆかなければならぬ。でも喜んでくれたまえ、ホームズ君。

僕を代理人として送ってくれた君の信頼は裏切らなかったよ。こういったことは一夜で、

ものの見事に解決してしまったのだ。

「一夜で」と言ってしまったが、実際はふた晩かかった。第一夜はまったく得るところな

く終ってしまったのだからね。僕はサー・ヘンリーの部屋で、一緒に明け方の三時近くま

で起きていたのだが、階段の上の時計の音のほかはなんの物音もしなかった。ずいぶんと

憂鬱な寝ずの番をやったもので、果てはふたりともいつか椅子に坐ったまま眠りこんでし

まった。でも幸いに落胆せず、もう一度やろうと決心したのだ。

 翌晩、ランプの光りを弱め、小さな物音も立てずに、煙草をふかしながら坐っていた。

時間がこんなにのろくよどむように流れてゆくとは信じられないくらいだった。でもその

間、われわれを救ってくれたのは、さまよう獲物がかかる罠 わな を狩人が見つめているとき

に感じるにちがいない、あの同じ忍耐強い興味だった。

 一時が打った。そして二時が。今度も失望の中にあきらめなければならないのかと思い

かけたとたん、ふたりとも椅子に坐ったままとっさに、すっくと背を伸ばして、疲れ果て

た神経を今いちど油断なく張りつめたのであった。廊下で軋 きし るような足音を耳にしたの

だ。その足音が、ひどく忍びやかに通り過ぎて、やがて遠くで消えた。そこでサー・ヘン

リーは静かにドアを開け、ふたりは追跡にかかった。すでに件 くだん の男はバルコニーをま

わって、廊下は真の暗闇だった。そっと足音をしのばせて、バルコニーに出てみると、頃

合いよく、背の高い、黒いあごひげの男が、肩を丸めて、忍び足でその向こうの廊下を

渡っているのが見えた。と見るまに、あの前のときと同じドアを開けて入って行くのだ。

ローソクの光りが暗闇の中でその姿を浮かし、陰鬱な廊下へ、ほんのひとすじ、黄色い光

りを投げかけていた。

 僕たちは用心深くそのほうへ小刻みに歩き、板張の上に体の重みをかける前に、音がす

るかどうか、あらかじめそこを軽く踏んでみたくらいだ。長靴はもう脱ぎ捨ててしまって

いるが、それでも古い板張だけに、足の裏で、ぴしりときしんだ。ときどき、これはてっ

きり、つけているのを覚 さと られたかと思いもした。だが幸いに、男は少し耳が遠かった。

彼は自分のしていることにまったく心を奪われていた。とうとうドアのところへ辿 たど りつ

いて、のぞきこんで見ると、彼は窓辺にうずくまり、ローソクを手に、蒼白の、あの緊張

した顔を一枚の窓ガラスに押しつけていた。一昨夜見かけたのと、まったく同じ様子だっ

た。

 僕たちはそこへ行ってからどう出るかという計画は、何も取り決めていなかった。だが

サー・ヘンリーはいつでも、自然と直接的な行動にでる人である。彼は部屋の中へ入っ

た。すると、バリモアは、はっと鋭い声をあげて窓から飛びのき、顔を真蒼 まっさお にして、震

えながら、僕たちの前につっ立った。その黒ずんだ目を白面の顔にいからせ、サー・ヘン

リーから私へと移しながら、恐怖と驚愕 きょうがく の色を浮かべていた。


分享到:

顶部
09/30 21:33