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九 ワトスン博士の第二報告(6)
日期:2023-11-13 14:54  点击:250

「そこで何をしているんだね、バリモア」

「何もしてねえです、旦那さま」興奮のあまり、ほとんど口がきけなかったが、手にした

ローソクが震えるので、影が上下にはねていた。「窓が、その、うまくしまってるか、夜

分に見てまわりますので」

「二階の窓をかい」

「はい。窓はみんな見ますです」

「これ、バリモア」サー・ヘンリーは厳しく言った。「僕たちはお前から本当のことを聞

き出す気でいるんだ。早く言ったほうがお前の手数も省けるというものだ。さあ、嘘を言

うな! あの窓で何をしていたんだ」

 バリモアは絶望的に僕たちを見て、極度の疑惑と不幸に苦しむ人のように、両手をもみ

しぼった。

「何も悪いことはしていませんです、旦那さま。ただローソクを窓のところへかざしてい

ただけでございます」

「じゃ、なぜローソクを窓へかざしておったのだ」

「おたずね下さいますな、旦那さま。……どうぞ、そればかりは! ちかってあれは手前

の秘密ではございません。でも申し上げるわけには参りません。手前だけのことでござい

ましたら、あなた様におかくしなぞいたしません」

 ふとこのとき、あることを思いついて、窓しきいからローソクを取り上げた。バリモア

がそこへ置いてあったのだ。

「この男はきっと合図にこれをかかげていたのですよ。合図に答えるものがあるかどうか

見てみましょう」

 僕はバリモアがやったようにそれをかかげて、夜の暗闇の中をじっと見すえた。月は雲

にかくれて見えなかったので、樹木の黒いかたまりや、それより明るい、うっすらとした

荒野の広がりが、おぼろげながらに見分けることができた。するとそのとき、僕は歓喜の

声をあげた。ピン先ほどのちっちゃな黄色い光りが突然暗夜のヴェールを貫いてきらめ

き、窓に縁どられた黒い四角の中央で、じっと輝いたからである。

「そら、あそこに!」

「いいえ、先生、なんでも……何でもございません」バリモアが横から口を出した。

「誓って、旦那さま」

「ワトスン先生、窓をよぎって光りを振ってごらんなさい。ほら、向こうも動かしていま

すよ。おい、こいつめ、これでも合図じゃないと言うのか。さあ言ってみろ。向うの相棒

は誰だ。何を企んでいるんだ」

 バリモアの顔が、明らさまに反抗的になった。「これはわたしのことで、あなたの知っ

たことじゃありません。言いませんよ」

「それじゃ、すぐにも暇をくれてやる」

「結構です。どうでもとおっしゃるんなら」

「この面汚 つらよご しめ、いまいましい。恥を知るがいい。お前の家族を、同じ屋根の下で百年

以上も暮らさせて来た。それを今になって腹黒い陰謀で酬 むく いるというわけか」

「いえ、いえ、旦那さま。決して旦那さまに背 そむ いているのではございません」

 突然、女の声がした。

 バリモアの細君が夫よりも色を失い、怖ろしさに震えてドアのところに立っていた。そ

の強烈な感情が顔にあらわれていなかったなら、肩掛けをまとって、スカートをはいた、

彼女の大柄な身体つきは、あるいは喜劇と見えたかもしれない。


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