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九 ワトスン博士の第二報告(7)
日期:2023-11-13 14:55  点击:219

「お屋敷にお暇 いとま しなきゃならん、エライザ。これでお別れだ。荷物をまとめておかなけ

れば」

「ああ、ジョン。あたしのためにこんなことになって。旦那様、これはみな私のしたこと

です。私のせいですわ。夫が私のためにしてくれたことでございます。私が頼みましたも

ので」

「では言ってごらん。どういうことなんだ」

「不幸な弟が、沼地で飢え死にしそうになっているのでございます。みすみす、近くで見

殺しにすることもできません。灯火は食事の用意のできた合図です。向うの灯火は食物を

持っていく場所を示すためのものでございます」

「で、弟さんというのは……」

「脱獄囚……犯人のセルデンでございます」

「その通りなんでして、旦那さま」バリモアが言った。「申し上げましたように、手前の

秘密ではございませんので、お話しするわけにいかなかったのでございます。でも今、お

聞きおよびのとおり、企みはあったとしましても、あなた様に背 そむ くようなものでござい

ませんことは、お分かり下さるでございましょう」

 これで夜の忍び歩きも、窓辺の灯火の秘密も説明がついたことになる。サー・ヘンリー

も僕も驚いてこの女を見たものだ。この鈍感な気立てのいい女が、この土地きっての悪名

高い兇悪犯人と同じ血を分けたとは、どうして考えられよう。

「そうです。私の姓はやはりセルデンでございます。あれは私の弟に当ります。あれが若

い時分、甘やかしすぎまして、何でも好き勝手にさせていたのでございます。それで世間

というものは自分の思いどおりになる、好き放題なことができると考えるようになりまし

た。大きくなるにつれて悪い仲間とつき合うようになり、悪魔に魅入られまして、母はそ

のため、ひどく心を痛めて死にましたし、家名も泥沼にひきずりこんでしまいました。罪

の上に罪を重ねてだんだん深みに堕 お ちてゆき、今は神様のご慈悲でやっと死刑を免れてい

るのでございます。でも私にとりましては、昔、姉らしく、あやしたり遊んだりしてやっ

た、縮れ毛の子供と変わりございません。あれが牢を破りましたのも、そのためでござい

ます。私がここにいると知っていて、ここへ来ればきっと何とかしてもらえるだろうと

思ったのでございましょう。その弟がある晩、飢 う えと疲れにくたくたになって、すぐあと

を追われながら、身を引きずるようにしてやって来たのです。わたしどもにどうしてやれ

ましょう。中に入れて食物をやり、めんどうを見てやりました。そこへ旦那さまがお帰り

でございました。追跡の声が聞こえなくなるまでは、どこよりも沼地にいるほうが安全だ

と思いましたのか、弟はそこにひそんでおりました。で、ふた晩ごとにあの窓のところへ

ローソクを持って行きまして安否を確かめたのでございます。そして合図に答えがありま

すれば、夫がパンと肉をいくらか持って行ってやりました。

 ここを立ち去ってくれればいいがと毎日願ってはおりますものの、おります間は、見捨

てるわけには参りません。これですっかりお話し申し上げました。私も正直なクリスチャ

ンです。このことにつきましてお叱りがありますれば、それは夫にはなくて、私にあるの

でございます。夫は私のために、ああしたことをしてくれたばかりでございます」

 彼女の話は信服させるような熱がこもっていた。

「これは本当だね、バリモア」

「はい、ひとつも間違いはございません」

「よろしい。お前の家内のためとあれば、お前を咎 とが める要はない。さっき言ったことは

忘れてくれ。ふたりとも部屋へひきとってもよろしい。朝にでも、とっくりこのことを相

談しよう」

 ふたりが行ってから、僕たちはふたたび窓から外を見た。サー・ヘンリーは窓をさっと

開けた。冷たい夜風が顔にあたった。はるか彼方の暗闇の中で、ちっぽけな黄色い明りが

まだ光りを放っていた。


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