日语学习网
十 ワトスン博士の日記(2)
日期:2023-11-13 14:59  点击:281

 僕は計画を全部サー・ヘンリーに話そうと思った。でもよく考えて見ると、できるだけ

誰にも話さずにおいて、なるべく自分だけで事を運ぶほうが賢明だと悟った。彼は目下沈

黙を守り、放心の態 てい である。彼の神経はあの沼池の吠え声でひどく痛めつけられている

のだ。この際、サー・ヘンリーにさらに心労をかけるようなことは何も言うべきではない

だろう。ただ自分の力で目標へ進んで行こう。

 今朝、朝食後ちょっとした事件がおきた。バリモアがサー・ヘンリーと話をしたいと申

し出た。ふたりはしばらくのあいだ書斎に閉じこもったままだった。僕は撞球 ビリヤード 室に坐

りながら、一度ならず声高に話しているのを聞きつけた。それで何のことを議論している

のか大体わかった。しばらくして、彼はドアを開け、僕を呼びこんだ。

「バリモアがどうも苦情を言ってね。自分から進んで秘密を打ち明けたのに、義弟を追っ

かけるのは不当だと言うんです」

 執事のバリモアはたいへん蒼い顔をしているが、落ち着いてわれわれの前に立ってい

た。

「もっと穏便にお話しすれば良かったのですが、どうかお許し下さいませ。でも、おふた

かたが今朝お戻りになって、セルデンを追跡されたとお聞きして、いたく驚きました。あ

の男は私が追手をさしむけなくてさえ、悪戦苦闘しなければならないのです」

「お前はあのことを進んで話したと言うが、それはちょっと違いやしないかね。問い詰め

られて、仕方なしに、お前が、いや奥さんが話しただけのことだよ」サー・ヘンリーは

言った。

「旦那様がそれをご利用なさろうとは夢にも思いませんでした」

「でも、セルデンのためにみんな危険な目に会うんだよ。この沼地には、家がぽつりぽつ

りと散在している。あいつは何をするかわからぬ男だよ。そんなことはひと目見ればわか

ることだよ。たとえばステイプルトン君の家をご覧。防ごうにも彼ひとりだけではどうに

もなるまい。あんな男は錠や鍵のかかる部屋に押しこめなければ、誰も安心できないよ」

「いいえ、旦那さま。あれはもうどの家にも押し入ることはしませんです。誓って申し上

げます。もうこの土地の人たちには、ご迷惑をおかけいたしません。二、三日のうちに手

筈 てはず がととのいますから、そうしたら南アメリカのほうへやります。ですからあれが沼地

にいますことは、どうぞ警察に届けないで下さいまし。警察では追跡をあきらめているの

でございます。船の都合がつきますまでは、どうかじっとさせて置いて下さい。あれのこ

とがわかりますと、妻もあっしもとんだ目に会います。どうかお願いでございます。警察

には何分お知らせしないようにどうか」

「ワトスン先生、あなたはどう考えます」

 僕は肩をすくめた。「間違いなく国外に逃げてくれれば、みな安心するでしょう」

「でも、行く前にまた誰かに危害を加えないとも限りませんがね」

「そんな無茶なことはもう、しますまい。欲しいものは何とかくれているんです。罪を犯

せば、すぐ所在がわかってしまいます」

「それはそうだ。では、これでもう……」

「ありがとうございます。本当に心からお礼申し上げます。あれが捕まるようなことがあ

りましたら、女房は死んでいるところでした」

「これは重罪人を教唆幇助 きょうさほうじょ することになりますね、ワトスン先生。でも話を聞いて

見ると、セルデンを引き渡す気はしませんね。まあこれで終りだ。よろしい、バリモア、

行っていいよ」

 バリモアは感謝の言葉を口ごもりながら行きかけたが、ちょっと躊躇 ちゅうちょ して、また

戻って来た。


分享到:

顶部
09/30 19:43