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十 ワトスン博士の日記(4)
日期:2023-11-13 14:59  点击:222

「ワトスン先生、この話をどうお考えになります」

「前よりもいよいよむずかしくなりましたね」

「同感です。でもL・Lという女をつきとめることができれば、万事がはっきりすると思

いますね。かなり事態もわかってきました。その女さえ探し出せば、何かと知っている人

物が浮かび上がって来るはずです。で、次にはどうしたらいいでしょうね」

「ホームズにすぐいっさいを知らせてやりましょう。ホームズならこれで何か手がかりを

つかむでしょう。間違いなく、自分でここへ乗り出してきますよ」

 僕はすぐに自分の部屋へ行って、ホームズに今朝のバリモアとの話の報告を書いた。

ホームズは近頃ひどく忙しいと見える。僕がベイカー街からもらった手紙は数少なく、そ

れもいたって短いもので、僕の書き送った報告には何ら意見を加えず、また僕の任務にも

言及していない。疑いもなく、例の恐喝事件に全力をつくしているのだ。それにしてもこ

の新しい情報はきっとホームズの注意を引き、興味を新たにするに違いない。ともかく、

ここにいてくれれば、と思う。

十月十七日

 今日は終日雨。蔦 つた の葉にさらさらと鳴り、軒からは雨だれの音しきり。

 吹きさらしの、寒い宿り場のない沼地で、囚人はどうしているのか。哀れな奴! 罪が

何であれ、いま受けている苦しみは、罪を償うものがあろう。それはそうと、あの馬車の

中の人物と月光を受けて岩上に立ったあの男はいったい何者だろう。彼もまた雨にさらさ

れているのか……いまだ見ぬ暗闇の番人よ。

 夕方、僕は防水服をつけて、びしょぬれの沼地をさまよい歩いた。暗い思いに胸ふさ

ぎ、顔を雨にうたれ、風はひゅうひゅう耳に鳴っている。神よ、今、大沼地にさまよい入

る者に力を貸したまえ。普段は堅固な土地さえも、沼のようになっているのですから。

 行くうちに、あの不思議な男がひとり立っていた黒岩にたどりついた。ごつごつした頂

上に立って、陰鬱な高原を見おろした。雨は赤褐色の岩肌に降りしきり、どんよりした石

板色の雲は、夢幻めいた丘の脇へ、灰色の環となって這 は い、あたりに低くたれこめてい

た。はるか左側の窪地には、霧になかばかくれてバスカーヴィル邸のほっそりとした塔

が、樹々の上につき出ていた。目にした限りの人間生活の形跡といえば、丘の中腹に沢山

ある有史以前の石室以外には、この塔だけだった。二日前の夜にまさしくここで見た、あ

の不思議な男の跡など、どこを探してもなかった。

 帰りみち、モーティマー医師が馬車に乗って追いついて来た。ファウルマイアの辺鄙 へんぴ

な農家から沼地の悪路を通ってやって来たのだ。彼はたいへん僕たちのことを心配してく

れ、様子を見に一日として屋敷を訪れない日はない。僕に乗れとすすめて、家路へ馬車を

とばした。彼は彼でスパニエルの小犬がいなくなったことでひどく困っていた。沼地のほ

うへ行ったきり帰ってこないのだそうだ。何とか慰めて来たが、グリムペンの大泥沼で小

馬が沼に溺れたのを知っているので、その犬も帰って来るとはどうも思えない。

「ときにモーティマー先生。馬車で行けるあたりのこの辺で、先生のご存じない方 かた はあ

まりございませんでしょうね」

 でこぼこ道をゆられながら聞いてみた。

「ええまあね」

「それじゃ、L・Lという頭文字の婦人をご存じありませんか」

 彼はしばらく考えていた。「いいえ、知りません。ジプシーや労働者の中には知らない

人もいますけれど、農夫や相当の身分のある方にはそんな頭文字の人はいませんね。い

や、ちょっと待って下さいよ」ちょっと間をおいて言い足した。


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09/30 19:35