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十 ワトスン博士の日記(5)
日期:2023-11-13 15:00  点击:261

「ローラ・ライオンズがいますよ。これならL・Lですね。でもクーム・トレイシーに住

んでいますよ」

「どんな人ですか」

「フランクランドの娘さんです」

「おや、あの変わり者のフランクランド老人の?」

「そうです。ライオンズという画家と結婚しました。沼地へスケッチにやって来た男で

す。ならず者だと後になってわかったのですが、結局はローラを見棄ててしまいました。

私の聞いたところでもローラのほうにも何かの落度もあったようですが、彼女の父親とい

うのが、自分の同意を得ないで結婚したというので、一向に面倒を見てやりません。もっ

とも他に理由もあったでしょうがね。だからローラはこんな理解のない父親と夫にはさま

れて、たいへん辛 つら い思いをしてきたわけです」

「それで、その女はどうして暮らしているのですか」

「フランクランド老人は少しは仕送りをしているようですが、大したことはできないで

しょう。なにしろ自分の費用に相当入れなくちゃなりませんからね。ローラが身から出た

さびにしましても、将来に望みもなく、構わずに放って置くのは許しがたいことです。で

もこの話が知れわたりますと、この土地の何人かが堅気な生活ができるようなことをして

やりました。ステイプルトンもサー・チャールズも何かしてやったようです。私も、少し

ばかり手をかけてやったことがありますよ。タイプライターの仕事をあてがってやりまし

た」

 モーティマーはどうしてこんなことを聞くのか知りたがったようだが、僕はいい加減に

その場をごまかしておいた。誰にでもうっかり打ち明けられない問題だ。明日の朝、クー

ム・トレイシーへ行こう。そしてこのいかがわしい評判のあるローラ・ライオンズ夫人に

会えば、この一連の不可解な事件での、ひとつの出来事を解く鍵が得られるかも知れな

い。

 しかし、たしかに僕も悪知恵が発達したものだ。モーティマー医師がなぜ聞くのかと、

厄介なくらいしつこくたずねるので、出まかせにフランクランドの頭蓋骨は何型に属する

のかと質問をしてやり、それからは馬車の中ではずっと骨相学の話で持ち切りだった。

シャーロック・ホームズと無駄に長い共同生活をしたわけではない。

 今日は暴風雨で陰気な日だが、ここにもうひとつだけ記すべき事件がある。それはバリ

モアとたったいま交わした話なのだが、これもそのときとなれば、手を見せるもっと有力

な切り札になる。モーティマー医師はそのまま足をとどめて食事をし、その後でサー・ヘ

ンリーとトランプのエカルテをやった。僕が図書室にいるとバリモアがコーヒーを持って

来てくれたので、この機をのがさず、二、三の質問をしてみた。

「あの君たちの大事な人は、もう出発したのかい。それとも、まだそのへんにうろちょろ

しているのかね」

「わかりませんです。去ってしまっておればいいのですが。ここにいますと面倒ばかりか

けますので。この前、食物を運んでやってから、全然消息がわかりません。そうでした、

あれは二日前でしたが」

「そのときは会ったのかい」

「いいえ、会いませんです。でも次の日行きましたら、食物がなくなっておりました」

「では、たしかにそこにいたのだね」

「そうと思いますが。他の男が食べたのでなければ」

 僕はコーヒーを飲もうとしていたが、カップを唇にはこぶ途中で、バリモアを見つめ

た。

「では他の男がいると言うのかい」

「はい、先生。沼地にもうひとりの男がいます」

「見たのかい」

「いいえ」

「じゃ、どうしてその男がわかるんだね」

「もう一週間も前になりますが、セルデンが申しました。やはりかくれていますそうで。

でも囚人ではございませんようで。いやなことでございます、ワトスン先生。……率直に

申して、いやなことでございます」ひどく真剣な調子で言った。


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