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十一 岩山の男(7)
日期:2023-11-14 11:20  点击:259

「どうじゃな! わしの言ったとおりじゃろうが」

「たしかに、何か秘密の使いにいくといった様子の少年でしたね」

「その秘密の使いがどんなことかすら、州の巡査にはわからんのですって。だがひと言で

もあいつらに話してやりますことかい。ワトスンさん、あなたもお話しになったらいけま

せんぞ、ひと言でも! よろしいかな」

「おおせのとおり、話したりしませんよ」

「警察のやつらはこのわしを酷 ひど い目にあわせおった。フランクランド対女王の訴訟事件

でいろいろなことが明るみに出ると、州全体が警察に対する憤りで湧 わ きたつことになると

言っても言い過ぎじゃありませんのじゃ。警察を助けるなんてまっぴらですわい。野次馬

どもが藁 わら 人形のわしでなく、本もののわしを火焙 ひあぶ り台へ押し上げても知らん顔をして

いるという手あいじゃ。おや、まだお帰りじゃありますまいな! このめでたい日を祝っ

て、ひとつ大いに飲 や ろうじゃありませんか」

 しつこく引きとめるのを断ると、では送っていくというのをやっと振り切って、帰途に

ついたが、老人の目のとどかないところまで行きつくと、私はいきなり沼地のほうへ方向

をかえた。そしてあの少年が姿を消した石だらけの丘へ向かった。すべて私の思うとおり

に進んでいた。運命の神のわが行く手に恵んでくれたこの好機を、気力と体力のつづく限

り利用せずにはおくものか、と私は心にかたく誓った。

 私が丘の頂きに達したときには、太陽はすでに沈みかかって、丘の片側の斜面は夕映え

に金緑色に輝き、反対のほうには灰色の夕闇が迫っていた。はるか彼方の地平線にはもや

が低くたれこめ、その上にベリヴァとヴィクスンの断崖が夢の中の景色のように頂きを浮

きあがらせていた。前方の広いひろがりには物音ひとつ聞こえず、動くものすらなかっ

た。鴎 かもめ かタイシャクシギか、大きな灰色の鳥が、青空たかく、ただ一羽まいあがってい

た。この茫漠とした天穹 てんきゅう と荒地の間にあって、呼吸をしているものは、私とあの鳥だ

けのように思われた。

 この不毛の土地、孤独感、そして私の使命の切迫感と謎が、私の胸をひやりとしめつけ

るようであった。あの少年の姿はどこにも見当らなかった。しかし、足もとの谷間に、ひ

と還 めぐ りの石室があって、その中央に雨をしのげる屋根がひさしのように残っているのが

あった。それを見ると、私の心は躍 おど った。これこそあの怪人が潜んでいる巣窟に違いな

い。

 とうとう私の足はそのかくれ場所の入口に立った。秘密は今こそ私の掌中 しょうちゅう にあるの

だ。

 私は木の葉にとまった蝶に近づくステイプルトンよろしく、息をひそめてその石室に近

づいた。しめた。そこには人の住んでいる形跡があるのだ。丸い岩石の間の薄暗い通路を

進むと、玄関に使っているらしい荒廃した入口があった。中は物音ひとつ聞こえない。怪

人はその中にひそんでいるのだろうか、それとも沼地をうろついているのだろうか。私の

神経は冒険に際してひりひりした。口にしていた煙草を投げすてると、ピストルの床尾 しょうび

をしかと握りしめ、入口にさっと近づいて中をのぞきこんだ。中は藻 も ぬけのからだった。

 しかし、間違った筋道をきたのではない証拠がいくつもあった。これはたしかに人間の

住んでいるところだ。新石器時代の人類がかつてその上で眠った石板の上に、防水布を巻

いた毛布がころがっていた。粗末な炉には火を燃したあとの灰がうず高い。そのほか炊事

道具がいくつか、バケツには水が半分満たされている。缶詰 かんづめ のからが散乱しているとこ

ろを見ると、相当長くここにいるらしい。


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09/30 19:41