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十二 沼地の死(2)
日期:2023-11-14 11:24  点击:278

「いつものことだが、今度も君はどれだけ功績があるかわからないよ。もし僕が君をだま

したように思えたなら許してくれ給え。しかし、僕がきたのは実際は君のせいでもあるん

だぜ。僕の判断では君が危険に近づいていることが感じられたから、こうしてここに出向

いて、自分でこの事件を調べようという気になったわけだ。僕が君やサー・ヘンリーのそ

ばにいたとしても、君らと同じように考えていたと思うし、それに僕がいるということに

なれば、この恐るべき敵は大いに警戒すると思ったからね。それでこの通り歩きまわるこ

ともできたよ。屋敷にいたら、そうはいかなかったろうじゃないか。つまり敵に対しては

未知数の力を残しておき、いざという場合に全力を注ごうというつもりだったんだ」

「しかし、なぜ僕を暗雲 あんうん の中に放っておいたのだい」

「君が知っていても何の益もないと思ってね。そのため僕が見つかってしまうおそれもあ

る。君が僕に何か言っておきたいと思うときもあるだろうし、それに親切心から、何か陣

中見舞いのようなものを持ってきただろうし、そうすれば不必要な危機を招いたことにな

るな。僕はカートライトをつれてきたよ。おぼえているだろう、あのメッセンジャーの小

さな小僧だ。あいつが僕の簡単な欲求を満たしてくれている。なに、パンときれいなカ

ラーだけさ。これ以上、必要と思うかね。そのうえ、あの子は目もきくし、足も丈夫だか

ら結構役にたってくれたよ」

「すると僕の報告はみんな、なくてもよかったようなものだな」

 その報告をつくったときの苦労と得意な気持を思い出すと私の声はふるえた。ホームズ

はポケットから一束の手紙をとり出した。

「まあ、そう言い給うな。君の報告はここにあるよ。ほら、ずいぶんと読んだあとがある

じゃないか。僕はちゃんと手筈 てはず をきめておいたから、手許にとどくのはわずか一日おく

れるだけだった。この難局に示した君のすばらしい熱意と手腕に対して、僕は実際に感心

しているのだよ」

 私はまだ、このたくらみにしてやられたことに心中おだやかでなかったが、ホームズの

この讃辞に怒りは氷解 ひょうかい した。それに心では彼の言うことが正しいとは感じていたの

だ。彼がこの沼沢地に来ているのを私が知らないでいたほうが、結果的には良かったのだ

という気がしてきた。

「それはよし。ところでローラ・ライオンズ夫人訪問の結果はどうだったんだね」私の心

の和らぎが顔に現われるのを見てとったホームズは話を進めた。「いや、クーム・トレイ

シーで、この事件で役に立つ人間と言えば彼女くらいだ、ということは僕はもう知ってい

たから、君が会いたのは彼女だというのも大体察しはついたよ。君が今日行ってくれな

かったら、明日僕が行かねばならんところだった」

 太陽はすでに沈み、黄昏 たそがれ が沼地をつつもうとしていた。空気が冷たくなったので、私

たちふたりは暖を求めて石室に入った。薄明りの中でふたりは向い合ってすわり、私はラ

イオンズ夫人との会見のいきさつを話した。彼は非常に熱心に聞き入っていたが、二、三

の事柄については心ゆくまで私にくり返させた。

「ここが最も重要な点だよ、君。この複雑な事件で今まで埋めるのに悩んだ《みぞ》を、

それが埋めてくれるんだ」私の話が終るとホームズは言った。「君は気がつかなかったか

い。この婦人とステイプルトンという男との間には特別に親密な関係があるよ」

「そう親しいというわけでもあるまいが……」

「いや、その点では疑いなしだ。あのふたりは会っているし、手紙のやりとりもしてい

る。完全に手を結んでいるよ。これで僕らは非常に強力な武器を持ったわけだ。もしこれ

を利用して、あいつの細君を引き離すことができれば、の話だがね」


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09/30 19:33