日语学习网
十三 網をはって(4)
日期:2023-11-14 12:37  点击:294

 ほどなくサー・ヘンリーが自室にひきとってしまうと、彼の思いが奈辺 なへん にあったかを

知ることができた。寝室のローソクを手にしたホームズは、私を宴会用広間につれていく

と、壁にかけられ幾星霜 いくせいそう によごれた肖像に灯りをかざした。

「これで何か思いあたらないかい?」

 私はきりりとしまったきびしい顔をみつめたが、それは羽根飾りのあるつば広の帽子

や、ちぢれた愛嬌毛 あいきょうげ や、白レースの襟 えり にふちどられていた。獣的な容貌とは言えな

いが、端然といかつくて、唇はうすく、目は冷たく偏狭 へんきょう そうだった。

「誰か知った人に似ていないかい」

「あごのあたりは、サー・ヘンリーに似てるね」

「たぶんそんなところもあるだろうね。だがちょっと待ちたまえ」

 彼は椅子の上に立ち上がると、左手でローソクをかざし、右手をまげて帽子と長い捲毛 ま

きげ をおおった。

「おおっ!」

 私は驚愕 きょうがく の叫びをあげた。カンバスの上には、ステイプルトンの顔が浮かび上がっ

ていた。

「ははあ、もうわかったね。僕の目は付属品を除いた顔だけを見るように訓練されている

んだ。変装していたって、そいつを見破ることは、犯罪調査の第一の要素なんだ」

「しかし、こいつは驚いたね。まるで彼の肖像じゃないか」

「そうだよ。先祖帰りという奴の面白い実例だね。こいつは肉体的にも精神的にも出てく

る。人間に再来説を信じこませるには、家族の肖像の研究で十分だね。ステイプルトンは

バスカーヴィル一族さ。これははっきりしている」

「相続の陰謀だね」

「たしかにそうだ。偶然この絵を見たことで、推理の環にもっとも欠けていたものの、お

ぎないがついた。奴をつかんだよ、ええ、ワトスン君。しっかりつかんじゃったよ。誓っ

てもいい。明日の晩までには、あいつもわれわれの綱の中でばたばたしてるさ。あいつの

集めてる蝶のように手も足も出ずにね。ピンとコルクでとめて、札をはって、ベイカー街

の蒐集品に仲間入りだ」

 彼は絵の前から離れると、まずめったにない発作的な笑いを爆発させた。私は彼が笑う

のをあまり聞いたことはないのだが、笑えば必ず誰かにとって、大凶の前兆になるのだっ

た。

 翌朝、私の目覚めは早かったが、ホームズはとうに起き出していた。私が衣服を着けて

いると、すでに馬車をとばして帰ってくるのが見えた。

「やあ、今日は一日、いそがしいぜ」

 彼は行動を起こす喜びに、もみ手をしながら言った。「網は準備完了だ。あとはたぐる

ばかりになっている。今日じゅうには、でかい、とがりあごのカマスを捕えるか、そいつ

が網の目からのがれ去るかがわかるよ」

「もう沼地へ行って来たのかい?」

「セルデンが死んだ報告を、グリムペンから、プリンスタウンに送っておいたのさ。この

事件では、君らに厄介はまったくかからないと思う。それからあの忠実なカートライトに

も連絡して来た。あいつのことだから、僕が安全だと言って安心させてやらなければ、主

人の墓の前の忠犬みたいに、石室の入口で悲嘆にくれて日を送るだろうからね」


分享到:

顶部
09/30 17:30