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十三 網をはって(5)
日期:2023-11-14 12:38  点击:295

「次には何をするんだ」

「サー・ヘンリーに会うことさ。ああ、やって来た」

「おはよう、ホームズさん」准男爵は言った。「参謀長と作戦計画立案中の将軍といった

ところですね」

「ちょうどそんな状況です。ワトスン君が命令を受けているところでしてね」

「じゃ、私もうけたまわりましょう」

「たいへん結構です。あなたは今夜ステイプルトン家で、ご夕食なさる約束をなすって

らっしゃいましたね」

「あなたもご一緒できませんか。あの人たちはとてもお客を大事にしますから、あなたが

いらっしゃったら喜ぶでしょう」

「ワトスン君と私は、ロンドンへもどらなければならないようです」

「ロンドンですって」

「ええ、今の場合、われわれはロンドンにいたほうがずっとためになるんですよ」

 准男爵はたちまち茫然たる顔つきになった。「ホームズさん、私は事件の落着まで一緒

にいて下さるだろうと思っていましたよ。屋敷にしろ沼地にしろ、ひとりっきりでは、あ

まり居心地の良いところではありませんからね」

「私を絶対に信じて下さって、私が申したとおりになさっていただかねばなりません。ス

テイプルトンのご兄妹には、われわれ二人はおともをするつもりだったけれども、火急の

用事でロンドンへ行かねばならなくなってしまった。しかし、すぐデヴォンシャーに戻る

と言っていました、とお伝えいただけますか」

「そうしてくれとおっしゃるなら」

「どうしても、帰らなくてはならないのです」

 私は准男爵の眉の曇りを見て、彼はわれわれが逃げだすのだと思い、気持をそこねてい

るのだとわかった。

「いつ出発なさりたいのです?」彼は冷淡にたずねた。

「朝食後すぐです。馬車でクーム・トレイシーまで行きます。ここにもどって来る保証に

ワトスン君の荷物を残して行きます。ワトスン君、ステイプルトンさんに、招待に応じら

れず残念だという書き置きをしてくれないか」

「私もぜひロンドンへご一緒したい。どうして私だけここに残らなくてはならないので

す?」

「その持ち場があなたの義務だからですよ。あなたは言われるとおりにするとお約束な

さったじゃありませんか。私は残って下さいと申し上げています」

「わかりました。では残りましょう」

「あっ、もうひとつ申し上げることがありました。メリピット荘へは馬車で行っていただ

きたいのです。だが馬車は帰して下さい。そして彼らに、あなたが徒歩で帰宅するつもり

だ、ということを知らせるようにして下さい」

「沼地を通るのですか」

「そうです」

「しかし、それこそあなたが私に何度となく、してはいけないと注意したことじゃありま

せんか」

「今度だけは安心してなさって下さい。あなたの勇気を信頼しなければ、こんなことは申

し上げないでしょう。だが、あなたがそうして下さることがいちばん大事なところなので

す」

「ではそういたしましょう」

「それから命が大切なのですから、メリピット荘からグリムペン道路に通じている、いつ

もの真直ぐな帰り道のほかは、どっちに向いても、沼地に入りこんではいけませんよ」

「そのとおりにします」

「それで結構です。午後にはロンドンへつけるように、朝食がおわりしだい、できるだけ

早く出発したいですね」

 私はホームズが昨夜ステイプルトンに、「明日は帰るつもりだ」と言ったのを覚えては

いたのだが、この計画にはまったく驚いてしまった。私をも一緒にひっぱって行くつもり

だなどとは、まったく思いもかけなかったし、彼自身、《やま》だと言うこの瞬間に、な

ぜふたりとも居なくなってしまってよいものか、合点がゆかなかった。しかし彼からは何

の説明もなかったので、ただ盲目的に従うほかはなかった。


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09/30 17:34