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本陣殺人事件--耕助の実験(1)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335

耕助の実験

 金田一耕助があの素晴らしい実験によって、一挙にこの変へん梃てこな密室の殺人事件

を解決して見せたのは、その晩のことである。この事については、特に請われてその席に

つらなったF医師が、覚え書きのなかに、詳細に書きとめているから、私はいまそのまま

ここに借用することにしよう。この覚え書きの他の部分から判断してF医師という人は、

医者という職業柄、たいへん冷静な、物に動ぜぬ人物のように思われるのに、この時ばか

りはよほど驚いたと見えて覚え書きにもひどく昂奮したような痕が見える。私はしかし、

それを出来るだけ平板なものに訂正しておくことにする。その方がこの事件の結末として

ふさわしいと思うからである。なお、以下しばらく私というのが医師であるということは

いうまでもない。

   F医師の覚え書き抜ばつ萃すい

 一柳家へ来ているあの奇妙な青年、金田一耕助君から、今晩、ある実験をするから立ち

会ってくれという招待をうけたのは、あの恐ろしい三本指の男の死体が掘り出されてから

間もなくのことである。

 この死体が掘り出された際、いちばんに検屍したのは私であるが、その時、金田一君は

私にむかってこんな事をいった。

「この死体について、あなたがどのような意外な事実を発見されようとも、この発表は後

刻、つまり僕がある種の実験をおわるまで、差しひかえていただきたいと思うのですが」

 金田一君がなぜそんなことをいったのか、その言葉の意味の半分だけは、すぐ私にもわ

かった。その恐ろしい死体を調べおわったとき、私はそこに非常に予想外な事実を発見し

て一驚したのである。だがその事をなぜすぐ発表してはならないのか、なぜ、後刻まで延

ばさなければならないのか、その方の意味は夜になるまで、私にもわからなかった。

 それにしても私は、金田一耕助というその青年の、一種神秘的ともいうべき洞察力に、

敬服せずにはいられなかった。聴けばあの死体は、偶然そこから掘り出されたのではな

く、金田一君の指図によって、掘り出されたということである。してみればかれは、たと

えはっきりそこに死体があるとは知っていなくても、三本指のあの男が、すでに死体と

なっているだろうということは知っていたにちがいない。更にまた、検屍の結果私がはじ

めて知りえたあの意外な事実、それをもかれはあらかじめ、ちゃあんと知っていたらしい

のだ。あの一見風采のあがらない、もじゃもじゃ頭の吃りの青年の姿が、私の眼に一種不

可思議な存在としてうつって来たのも無理ではなかろう。だから私は一も二もなくかれの

言葉にしたがった。と、同時に、非常な期待をもってその夜の実験というのを待ちうけて

いたのである。

 その実験というのは、つぎのようにしてはじまったのである。

 約束によってその夜私が一柳家を訪れたのは九時頃のことであったが、すぐ私は離家の

ほうへ案内された。離家の枝折り戸のところには、木村刑事が張り番をしていたが、私の

姿を見るとすぐ玄関までつれていってくれた。離家の雨戸はその時どこもかしこも閉され

ていたが、問題の八畳へ入ってみると、そこには四人の男が火鉢をかこんで、黙々として

煙草をくゆらしていた。四人というのは金田一君をはじめとして、磯川警部に久保銀造

氏、それから一柳家から唯一人出席していた隆二さんだが、その人たちの緊張のためにい

くらか蒼あお褪ざめた顔を見ると、私もいよいよ事件が大詰めまで来たことを、感じない

ではいられなかった。

 金田一君は私のすがたを見ると、すぐに煙草の吸い殻を、火鉢の中に押しこむと、

「さあ、これでみんな揃いましたから、さっそく実験をはじめることにしましょう」


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