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本陣殺人事件--耕助の実験(2)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 金田一君は元気よく立ち上ると、

「本来ならばこの実験は、あの犯行のあった時間、即ち明け方の四時頃まで待ったほうが

しぜんなんですが、それではあまり皆さんをお待たせすることになるので、少し時間を繰

りあげたのです。そのために、いくらか人為的な操作をしなければなりませんが、その事

はあらかじめご了解下さい」

 言いおわると金田一君は二本の指を口にあてて、鋭い口笛を吹いた。と同時に雨戸の外

を東から西へ駆け抜けていく足音がきこえた。私たちがぎょっとして顔を見合わせている

と、金田一君はにこにこしながら、

「なあに、木村刑事ですよ。さっきいった人為的操作というのを、私はあの人に頼んでお

いたのです」

 そういいながら金田一君は、床の間のまえに立ててあった屛風に手をかけた。この屛風

は私が入って来たときから向こうむきに立ててあったのだが、いま金田一君がそれをひら

いたとき、みな、いちように大きく眼を瞠った。屛風の陰には等身大の藁わら人にん形ぎ

ようが立てかけてあったのである。

 金田一君はにこにこしながら、

「作男の源七君に頼んでこさえて貰ったのですよ。ほんとうはあの時人間が二人いたので

すが、実験はこれ一つで十分です。ところで皆さんはこの部屋が、あの晩と同じ状態に

なっていることを認めて下さるでしょう。ほら、その西側の障子のあきぐあいなど……。

そしてこの屛風はここにこういうふうに立ててあり、その屛風のこちら側に死体があった

のでしたね」

 警部に手伝ってもらって金田一君は、屛風をあの晩と同じ位置に立てなおしていたが、

急に、しっというように両手で私たちをおさえる真似をした。ちょっとの間私にはその意

味がよくわからなかったが、すぐ水車の音をさしているのであることに気がついた。

 さっきまで止まっていた水車が、そのとき急に動き出したと見えて、ガッタン、ゴット

ンと鈍い回転の音がきこえて来る。私たちは思わず顔を見合わせた。

「木村刑事が樋といの水を落としてくれたのですよ。あの水車がいつも回転しているので

ないことは、皆さんご存じでしょう。いつもは樋がはずしてある。そうして使うときだ

け、ああして樋の水を落として水車を動かすんですね。ところで近頃じゃまだ日中は、野

の良らの仕事が忙しいから、周吉という人があそこへ米を搗つきに来るのは、いつも明け

方四時頃のことなんです。つまり毎朝四時頃になると、あの水車が回転しはじめるんです

よ」

 金田一君は早口にそんなことをいいながら、いったん廊下へとび出したが、すぐ戻って

来たところを見ると、手に一本の抜き身と、二本の糸をひっぱっている。

「この刀はむろん、床の間の裏の、押し入れの中にかくしてあったものなんです。それか

らこの糸……ほら、琴の糸ですよ」

 廊下からつづいているその琴糸を、金田一君は屛風のうえから座敷へひいた。見るとそ

れは二本の糸ではなくて、一本の糸がそこで折り曲げられて二重になっているのだった。

金田一君は輪になったその尖端を、くるくると二重のわなにするとその中に刀の柄をとお

し、鍔つばのところでしっかりぶら下がるようにした。

「警部さん、ちょっとその藁人形を……」

 警部は言下に藁人形を抱いて来る。金田一君は、左手にその藁人形を抱き、右手に抜き

身を握ったまま、屛風のうちがわに立っている。私たちは息をのんでそういう金田一君の

すがたを見守っていた。刀の柄にまきつけられた二条の琴糸は、はじめのうち、屛風のう

えからぶらんと垂れさがっていたが、やがて誰か屛風の裏から、引っ張るものがあるよう

に、しだいに向こうに手た繰ぐられていく。銀造氏はそれを見るとふいに大きく眼を瞠っ

た。


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