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本陣殺人事件--耕助の実験(3)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335

「あっ、水車が……」

 そのとたん糸はピンと緊張した。刀の鍔はすでに屛風のうえにある。と、そのとたん金

田一君が、藁人形のほうから押しつけるようにして、ぐさっと、抜き身を胸のあたりに

突っ立てた。

「あっ……」

 警部も銀造も隆二さんも、拳を握って思わず呼吸をはずませる。

 やがてころあいをはかって、金田一君が手をはなすと、藁人形はばったりその場に倒れ

た。その拍子にすっぽり抜けた抜き身は、まだ屛風のうえからぶら下がっている。だが、

それも、ちょっとの間で、すぐ屛風の向こうに見えなくなった。と同時にそのきっさき

が、バターンと雨戸を叩く音がした。

 私たちはすぐそれを追っかけて西の廊下へ飛び出した。あの二条の琴糸は、いま欄間か

らぶら下がっている。しかもそれは水車の回転にしたがって、しだいに外へ手繰りよせら

れていく。抜き身の鍔が欄間の角にひっかかって、二、三度刀が反射的に飛び上がった

が、それでも無事に欄間をくぐって、するすると外へ出ていった。と、同時にバサッと音

がして、欄間から何やら落ちて来た。金田一君はそれを拾いあげると銀造氏に見せなが

ら、

「ほら、あなたがあの晩ここから飛び込んで来たとき、廊下に落ちていた日本手拭い。

……つまりあの欄間に、傷がつかないようにおいてあったのですね」

 金田一君が雨戸をひらいたので、私たちはすぐ外へ飛び出した。むろんみんなはだしの

ままだったが、大きな驚きのために、誰もそんなことをかまっている者はいなかった。

 ちょうど月がのぼりかけたところで、庭は大して暗くもない。見ると私たちのすぐ眼の

まえに抜き身がぶらんとぶら下がっている。そして抜き身の鍔に巻きついている、あの二

条の糸は、いまは左右に別れて、向かって左のほうは石燈籠の灯ひ入いれの中を通って、

西のほうへつづいている。そしてもう一方は、便所の屋根へ向かって走っている。その便

所の屋根を金田一君がぱっと懐中電燈で照らした。

「あっ、琴こと柱じ!」

 そう叫んだのは警部である。いかさま突き出した便所の屋根の角のところに、琴柱が一

つ取りつけてある。そしてその琴柱の股のなかをくぐって、琴糸が走っているのである。

水車の回転にしたがって、二条の糸は左右からしだいに手繰り寄せられて、やがて琴柱

と、石燈籠の灯入れのあいだに、ピーンと一直線に緊張した。そしてその中間に抜き身の

ぶらさがっていることはいうまでもない。

「水車の力と、石燈籠と琴柱の安定、三つの中で一番弱い一角が破れるんです」

 水車がきしむような音を立てる。琴糸はいよいよ強く緊張したが、やがて、琴柱が

ビューンと飛ぶと、琴糸の緊張はそこでがったりゆるんだ。

「警部さん、あの琴柱を探してご覧なさい。多分、落ち葉溜めのへんに落ちている筈で

す」

 警部はすぐに探しあてたが、果たしてそれは落ち葉溜めのすぐそばに落ちていた。

 さて、いったん緊張のゆるんだ糸は、すぐまた徐々に緊張していく、金田一君が懐中電

燈で、今度は樟くすの木の幹をてらした。

「鎌……」

 なるほどそこには研とぎすました鎌が、樟の葉陰にがっきりとぶちこんであり、研ぎす

ましたその刃と幹とのつくる角度のあいだを、糸が走っているのである。金田一君はその

樟の木の向こうの空間を懐中電燈で照らすと、

「あの糸の向こうの方を見ていて下さい」


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