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本陣殺人事件--予行演習(4)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 私たちは探るように金田一君の顔を見た。

「賢蔵氏はその時すでに、綿密な計画をたてていられた。しかし、さて、その計画に使う

紐についてはまだはっきりした考えは持っていなかった。それは細くて強くて、しかも相

当の長さを必要とする。何にしようか……と、考えていたところへ、鈴子さんが三本指の

ことから琴をひく真似をしてみせた。ここで注意していただきたいのは、その時分には、

すでに三本指の男は死体となって、離家の押し入れのなかにかくされていたんですよ。賢

蔵氏はその死体を試験台に使うつもりでいる。その男のことがいま急に問題になったのだ

から、賢蔵氏は少なからず驚いたにちがいないが、それと同時に、鈴子さんの手つきを見

て、はっとある暗示にぶつかったのです。三本指と琴……そこに一種の因果関係を認めた

賢蔵氏は、琴の糸ということに気がついたのです。まったくそれは妙なことです。あの無

邪気なお嬢さんの、なんでもない所作が、殺人の大きな要素を暗示する。まことに恐ろし

いことですが、それが実際だったんです。そこで、賢蔵氏は土蔵へ琴をとりに入られた。

このお宅には琴が幾面もありますから、琴糸も余分が沢山ある。その中から若干部分を持

ち出したところで、誰も気のつく筈がありません。ところが琴の糸をとりにいかれた賢蔵

氏は、そこでまた琴柱というものが眼にとまった。あの便所の屋根にとりつけておく支点

としては、賢蔵氏も最初から琴柱を使うつもりではなかったと思う。股になった小枝かな

んか使うつもりでいられたんでしょうが、琴柱というものを見ると、これがアーチ型に

なっていて、糸を支えるのにはまことに都合よく出来ている。で、これを利用しようと考

えられた。こうして事件はしぜんと琴というものに縁が深くなっていったんです」

「ううむ」

 と、警部は唸り声をあげた。

「そしてその晩、実験をしてみたんだね」

 と、銀造氏が訊ねた。

「そうです。ところがこの実験について賢蔵氏は、予期しない二つの結果にぶつかったん

です。その一つは、あの叢むら竹たけが琴糸をはじいてピンピンピンと音を発すること。

この事は竹をきってしまわない限り、翌晩も起こるに違いない。しかし、急に竹をきるこ

とを賢蔵氏は好まなかった。そこでその音はそのままにしておいて、逆にそれを、カモフ

ラージしようと考えたんです。それが殺人の直後、自殺の直前にひいてみせたあの琴の音

です。この琴の音のために、人々はそれから間もなく起こった、あの叢竹の琴糸をはじく

音から、完全に目隠しされてしまったんです」

「ううむ」

 と、警部がまた唸った。

「そして、第二の思いがけない結果というのは?」

 と、銀造氏がまたあとを促した。

「それは三郎君に、実験の現場を見つけられたということですよ。もっとも、これは僕の

想像ですが、どうもこの時以外に、三郎君がこの計画に、割り込んで来るときはなかった

ように思われるんです」

 あっ──と、私たちは思わず顔を見合わせた。隆二氏の顔はいよいよ蒼くなっていた。


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