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本陣殺人事件--曼珠沙華(1)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

曼珠沙華

 以上がF医師の手記である。覚え書きにはこの後に三郎のことが書いてあるが、そのこ

とについては私はほかにも聞いたことがあるから、それを参照してここに簡単に記してお

こう。

 あの破傷風から回復したとき、三郎は警部からきびしく追究されて、なにもかも一切告

白したが、それはだいたい金田一耕助が想像したとおり、かれが兄の計画に参加するにい

たったのは、やはり、あの実験を見つけたからであった。それについて三郎はつぎのよう

に語ったということである。

「その時の兄さんの恐ろしい権幕を、私はいまでも忘れることが出来ません。あの晩私

は、離家にあかりのついているのに気がついて、こっそり忍んでいったのです。それとい

うのが、その二、三日、妙に兄さんの素振りが落ち着かなかった。何かしら、ぼんやりと

考えこんでいたり、詰らないことにも、ぎくりとして飛びあがったり……殊にその日の午

過ぎ、散髪屋からかえって来た私が、三本指の男の話をした時の、兄さんの顔色ったらな

かったのです。それが胸にあったものですから、離家に明かりがついているのを見ると、

私は、むらむらと好奇心を起こして、こっそり様子を見にいったのです。むろん、あの枝

折り戸は厳重に内側から閂がおりていましたが、私は垣を乗りこえて、なかへ入っていっ

たのです。そして、西側の雨戸のすきから、座敷のなかを、覗こうとしたんですが、その

とたん、欄間からぶらりと日本刀の抜き身がとびだして来たのですから、そのときの私の

驚き。──ご想像下さい」

 三郎は更に語をついで、

「私はあやうく声を立てるところでした。それを辛うじておさえることの出来たのは、み

ずからおさえたのではなくて、あまりの驚きに、声も出なかったらしいのです。私はあっ

けにとられて、宙にぶら下がっている抜き身を見ていました。すると間もなく、あのピン

ピンピンブルンブルンという音がしたかと思うと、抜き身がばっさり、石燈籠のそばに落

ちたのです。ところが、そのとたん、雨戸がひらいて、兄さんが顔を出したのですが、私

はあまり驚いていたために、かくれる才覚さえ出なかったんです。ぼんやり立っていると

ころを、兄に見つけられたんですが、その時の兄さんの恐ろしい形ぎよう相そう。──私は

いまでも忘れることが出来ません。兄さんは襟えり髪がみとって、私の体を離家の八畳に

ひきずりこみましたが、見るとそこには、あの三本指の男の死体がころがっています。し

かも、胸に恐ろしい傷を受けて──」

 さすがの三郎も、その時の恐ろしい光景を思い出すと、身顫いを禁じ得なかったそうで

ある。

「私はてっきり、兄さんは発狂したんだ。そして自分もそこにいる男と同じように、殺さ

れるのだと思いました。兄さんは私の体をねじふせたまま、しばらく昂奮のため、口も利

けませんでしたが、やがて昂奮がおさまると、まるで空気の抜けた風船みたいに、しょん

ぼりしてしまいました。まったく兄さんがあんなにしょげ返ったのを見たのは私もはじめ

てでした。兄さんという人は、元来気の小さい、女のような物事をくよくよと気にする性

質なんですが、ふだんそれを押しつつんで、いつも冷酷なくらい傲ごう岸がんにかまえて

いる人なんです。それが見栄も外聞もなくしょげかえってしまったのですから、私は気の

毒のようでもあり、痛快なような気もしたものです。兄さんはやがて、やっと気を取りな

おすと、はじめて自分の計画の一半を打ち明け、この事を誰にもいってくれるなと、泣く

ようにして頼みました。ここで計画の一半と申し上げたのは、そのとき、兄さんは克子さ

んの事には少しもふれないで、唯、自分は自殺するつもりだが、誰にも自殺だと思われた

くないのだといったのです。私はむろん、すぐいやだときっぱり断わりました。すると兄

さんはなぜいやなのかとききました」

 賢蔵のこの質問に対する三郎の答えこそ、ふるっているのである。それこそ探偵小説マ

ニヤ三郎の面目躍やく如じよたるものがあった。三郎はこう答えたというのである。


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