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恐ろしき妹(2)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 お祖母さまがお杉を突き落としたとは、どうしてもかんがえられません。お祖母さまは

二、三年まえから歩行も不自由でめったに外へお出になることはなく、まして御崎様のあ

の急な坂をのぼることなど思いもよりません。で、誰かほかの人に頼んで、その絵馬を

とって来てもらったのだろうか。しかし、そうなると、お祖母さまはこの絵馬の持つ意味

を御存じだったということになりますが、いかに利口なお祖母さまでも、そこまで気がお

つきになるとは思えず、もし、また気がついていたとしても、お祖母さまがこんな重大な

ことをお頼みになるほど信用出来る人は誰もいないように思われます。唯一人の兄さん、

あなたをのぞいては。……

 そこまで考えて来たとき、わたしはハッと思いあたることがありました。そうなのだ、

この絵馬を持って来たのは兄さん、あなたなのだ。ではいつそれを持って来たのか。そこ

まで考えて来たとき、思い出したのは、お杉の災難があったとき、あなたが療養所からか

えって来たことです。お杉が崖から落ちたことは、兄さん、あなたを驚かせました。もし

や……という気が兄さんにも起こったにちがいありません。そこでそっと御崎様へいって

みたところが、絵馬は絵馬堂にちゃんとのこっていた、ということは、お杉が崖から落ち

たのは、絵馬とはなんの関係もなく、まったくの災難だったということを意味していない

でしょうか。

 そうなのです。わたしはいまこそ自分の恐ろしい思い過しに気がついています。わたし

は馬鹿な娘だったのだ。ありもしないところに恐怖の楼閣をきずきあげて、勝手にその影

におののいていたのです。そのことは絵馬の手型と葛の葉屛風にのこされた血の手型をく

らべてみることによって一挙に解決されました。屛風にのこされた手型は、たしかに井戸

の中から引き揚げられた死骸の手と一致すると警察ではいっています。そしてその手型と

絵馬の手型は、ぴったり一致したのです。即ち、ガラスの眼を持ったあの人はやっぱりわ

たしたちの兄さんだったのだ。大助兄さんだったのだ。伍一さんなんかじゃなかったので

す!

 ああ、わたしはなんという娘だったのでしょう。真実の兄さんを他人と疑い、コソコソ

とその人の様子をうかがい、蔭口をきき、そのことによって大助兄さんを、いっそう不幸

な孤独におとしいれていたのです。

 ああ、わたしはなんという愚かな、悪い娘だったのでしょう。それはさておき、絵馬堂

から絵馬を持ってかえった兄さん、あなたはなぜそのことをわたしに話さなかったのか。

それもだいたい、わたしにはわかるような気がします。絵馬堂に絵馬があったことによっ

て、あなたはひょっとしたらガラスの眼をもったあの人が替え玉であるかも知れない。そ

う考えたあなたは、それを確かめる大役を、わたしのような感じ易い、ものに驚き易い娘

に託すことに危険をかんじられたのだ。そこでそれをこっそりお祖母さまに渡された。お

祖母さまはいつか機会があったら、大助兄さんの、手型とひきくらべてみるつもりで、

そっとかくしておかれたのだ。しかし……しかし……その機会が来たときは、大助兄さん

はすでに死んでいた!

 絵馬のことは、だいたいこれで解決がつきました。そして今度は、あの恐ろしい殺人事

件です。

 小野の昭治さんは、自分がふたりを殺したのだと告白したという事です。しかしわたし

は、はじめからそんなこと噓であることを知っていました。それを感じのうえでも知って

いましたし、また理窟のうえでも辻褄のあわぬところがあるのです。昭治さんは八月二十

九日の晩忍びこんだとき、貞宗の短刀を奪いとったといっています。ところが、わたしは

九月一日の夜、その短刀がお座敷の違い棚のうえにあったことを、はっきり憶えているの

です。

 昭治さんは噓をついているのです。誰かをかばうために、みずから犯人の役を買って出

たのです。では、誰をかばっているのか。犯人はいったい誰なのか。


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