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黒猫亭事件--七(4)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「私たちの中学、東北の方ですがね。学校を出るとわれわれ二人、あの男と私ですな。一

緒に東京へ出て来たんです。そして、しばらく神かん田だの下宿でゴロゴロしていたが、

そのうちに私はアメリカへいった。あいつは日本にのこって、何になったかというと、不

良になった。硬派ですな、押し借りゆすりという奴です。その後、ぼくがアメリカからか

えって来ると、不良のほうは足をあらって、何んとか組へもぐりこんで、そこでかなりい

いかおになっていた。その時分旧交をあたためて、ちょくちょく往復していたんですが、

そのうちに私が兵隊にとられたので、また縁が切れてしまった。そう、六、七年もあいま

せんでしたかねえ。ところが、私は去年復員して来たんですが、復員するとすぐ、一寸ち

よつとした用事があって、瀬戸内海のほうへいっていた。ところが、そのかえりの汽車の

なかのことなんです。なにしろ、えらい人で、……そこへまた、ヤミ屋の一団がドヤドヤ

と乗り込んで来たから、さあ、大変、何しろあの連中と来たら、こわいもの知らずだから

始末に悪い。実に横暴をきわめまして、われわれ善良なる旅客の迷惑すること限りなしで

す。しかし、誰もなにもいうものはない。みんな、戦々兢きよう々きようたる有様です。

──むろん、ぼくもそのひとりでしたよ。で、ヤミ屋諸公、いよいよ図に乗って、暴状いま

や、黙すべからざるところにたちいたって、決然として立ち上がった男がある。そいつ

が、ヤミ屋の頭あたま株かぶらしいのをつかまえて、何かいいがかりをつけたからスワ大

変、いまにも大乱闘、大活劇が起こるかと手に汗握り、肝をひやして、喜んでみている

と、あにはからんやです。そいつがね、ヤミ屋の親分に何やらクシャクシャといったと

思ったら、俄然、形勢一変でさあ。いままで殺気立っていたヤミ屋の一団が、青菜に塩と

いうていたらくで、いっぺんに静シュクにあいなった。いや、静シュクにあいなったのみ

ならず、その男に向かって平身低頭、キッキュージョとしてレイジョーを極めた。いや、

ぼくは学問があるから、とかく、むつかしい言葉を使っていかんのですが、あまり漢語を

使うと、漢字制限のおりから、ぼくの記録係りが困りますから、このくらいにしておい

て、とにかく、おかげでわれわれはほっと、失望と同時に蘇生の思いをした。満堂の感謝

キュー然としてかの英雄に集まった。御婦人のなかには、いささかボーッと来たのもあっ

たらしい。ぼくもホトホト感服したことです。警官諸公でさえ手に負えぬ暴君を、たった

一言でおさめるとは、何んたるえらい男であるか。昔の黄門さんみたいな人物である。──

と、そう思ってつくづく見直すと、ナーンだ、それがあの男、風間俊六じゃありません

か。ぼく、すっかり嬉しくなっちまいましてね。満堂の紳士シュクジョにわが威光示すは

この時なりと、あいつの肩をポンと叩いて、おい、風間じゃないか、おっほんとおさまっ

た。しかるに何んぞや、あいつ、ぼくの顔をつらつら見直して、ナーンだ、耕ちゃんかと

来たから、ぼく、照れましたね。と、いうわけで、これが金田一耕助風間俊六再会の一幕

で、ぼくがどこへもいくところがないというと、そんなら、おれのところへ来いというの

で、目下かれのところに寄き寓ぐうしていると、こういうわけです」

 署長も司法主任も村井刑事も、呆れかえってまじまじと、金田一耕助のかおを視詰めて

いた。すっかり毒気を抜かれたかおつきだった。これはまた、大変な人物を紹介して来た

ものであると歎息した。やがて、署長はおかしさを嚙み殺して、

「ああ、なるほど、それじゃ目下、風間氏のところに、同居していらっしゃるわけです

ね」

「さよう、居候というわけですな。居候のことを権八というそうですが、この権八はごら

んのとおりで、綺麗ごとにはまいりません。第一、長兵衛との出会いからして悪いや、本

来ならば権八のほうが、スッタスッタとむらがる雲助どもをなぎ倒す。その腕前に惚れこ

んで、長兵衛がつれてかえるという段取りであるべきところ、時勢がかわると雲助退治は

一切長兵衛にまかせておいて、権八は戦々兢々として、ふるえているのだからだらしがな

い。そのかわり、小紫の如き女性は現われてくれませんから、まあ、罪のないほうです。

ところが、それに反して長兵衛どのと来たら、実に無尽蔵に小紫をたくわえている。ぼく

の厄介になってる家も、二号だとか言ってますが、二号だか、三号だか、四号だか、五号

だかわかったものじゃない。それでいて御当人、おれは女に淡白で……なんていってるん

だから、驚くべきシロモノといえばいえますな。あれで女に淡白だとしたら、ひとりも小

紫を持たぬぼく如きは、まるでナシみたいなもんです」


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