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黒猫亭事件--八(2)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「ごらんなさい。犯人もかなりあわてたんですね。落ち葉をしいてから墓石をおいたん

で、こういうヘマをやったんです。おかげでぼくは、あまりほっつきまわる必要もなく、

すぐこの墓に眼をつけることが出来たんです」

 落ち葉をきれいにのけてしまうと、刑事も手伝って掘りはじめた。たしかに最近掘りか

えしたと見えて、土が柔かく素手でも掘ることが出来た。

「なるべく静かに。──手あらなことをしないように。──かんじんのしろものに傷をつけ

ちゃたいへんだ。つるはしは止めにしましょう」

 為さんと職人のひとりがシャベルで掘った。もうひとりの職人は、つるはしをおいて素

手で掘り出した。刑事も、じっとしていられなくなって、おなじく素手で掘りはじめた。

あとの三人はじっと掘られゆく穴を視詰めている。署長も司法主任も熱いいきを吐きなが

ら、おりおり帽子をとって額を拭った。金田一耕助もさすがにキーンと緊張したかおをし

て、帽子をとったりかぶったりしている。

 穴はだいぶ深くなった。と、土のなかへ手を突っこんでいた職人が、突然、ひゃっとい

うようなこえをあげると、あわてて手をひっこめた。

「何かあった?」

 金田一耕助がいきをはずませてそう訊ねた。

「へえ、な、なんだかぐにゃっとした、冷たいものが……」

「よし」

 と、金田一耕助は一同の顔を見わたすと、

「びっくりして、声を立てたりすると面倒だから、あらかじめ注意しておきます。皆さん

もすでに、お気付きになっていらっしゃると思いますが、ここには、屍骸がひとつ埋めて

ある筈なんです。さあ、掘ってください」

 職人たちは顔を見合わせたが、好奇心のほうがこわさよりつよかったらしい。シャベル

を投げ出すと、みんな素手で土をのけはじめた。と、すでに薄気味悪く土色をした、人間

の肌があらわれた。驚いたことには、この屍骸もまた、一糸まとわぬ素っ裸で、しかもう

つむけに埋めてあるらしく、背中から臀しりのあたりが徐々にあらわれて来た。

「ちきしょう、着衣から身許がわかっちゃたいへんというので、裸にしておいたのです

ね。危ないところでした。もう一週間もおくれると、これまた顔のない屍体になってしま

うところでした」

「おや、これは男の屍体ですね」

 司法主任がびっくりしたように叫んだ。肉付きや肌のいろからいって、それはたしかに

男であった。署長もこれには意外だったらしく、探るように金田一耕助の顔を見ながら、

きっと唇をへの字なりに嚙んだ。

「そうです、男ですよ。あなたはいったい、何を期待していられたんです」

「何をって……、ひょっとすると鮎子が……」

「鮎子? 御冗談でしょう。あの悪魔が死ぬものですか。鮎子は生きてるって、さっきか

ら何度もいってるじゃありませ……。わっ」

 さすがの金田一耕助も、最後に掘り出された屍骸の後頭部を見たとき、思わずそう叫ん

でとびあがった。ほかの人たちもいっせいに、顔色をかえていきをのんだ。全身の毛孔と

いう毛孔から、冷たい汗が噴き出すかんじだった。なんとその後頭部は、柘ざく榴ろのよ

うにわれているのだった。

 金田一耕助は袂たもとからハンケチを出して、神経質らしく顔の汗を拭いながら、

「これで、顔の相好がかわっていなければよいが……。刑事さん、恐れ入りますがその屍

骸を起こして、為さんに顔を見せてやってくれませんか。為さんはこの男を、見知ってい

るという話でしたから。……」

「君、これを使いたまえ」


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11/28 15:53