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黒猫亭事件--九(8)_本陣殺人事件(本阵杀人事件)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335

 そこでまた金田一耕助は、言葉を切ってひといきついたが、すぐまたあとをついで、

「話が長くなりましたから、これからさきは、なるべく簡単にお話しすることにいたしま

しょう。いや、もうぼくがお話しするまでもなく、すでに御承知のとおりですが、こうし

て準備工作が出来上がったので、いよいよ、本格的工作にとりかかることになった。あの

恐ろしい二月二十八日、亭主の糸島が物資仕入れに出かけた留守へ、可哀そうな小野千代

子を呼びよせ、これを一撃のもとに殺してしまった。実際に手を下したのは、お繁か日兆

か知りませんが、これはどっちだって同じことでしょう。さて、その屍体は日兆がかつい

でかえって、あの墓地へ埋めておいた。そのあとでお繁は黒猫を殺し、亭主を瞞まん着ち

やくした。また、お君ちゃんの印象にのこっていた、鮎子のパラソルを店のテーブルにお

いとくことも忘れなかった。それから自分は悪いドーランを顔に塗り、おできをいっぱい

こさえて、ひきこもってしまった。これが殺人第一号ですが、恐ろしいのはこの殺人はお

繁にとって、ほんとうの目的ではなかったことです。むしろ、これは、つぎに起こった、

殺人第二号の予備工作に過ぎなかったんです。殺人第二号は十四日の晩に行なわれまし

た。

『黒猫』を引き払い、G町の交番のまえをとおった糸島とお繁のふたりは、それからすぐ

に蓮華院へ入っていった。どういう口実でお繁が亭主を、そこへ引きずりこんだのか知り

ませんが、これは、何んとでも口実のつけようがありましょう。ここで糸島は殺されたの

ですが、今度は疑いもなく手を下だしたのは日兆だったと思います。さて、その屍骸を墓

地へ埋めてしまうと、お繁は当分、蓮華院の土蔵のなかにかくれていることにした。燈台

下暗しといいますが、これはまったく、うまいかくれ場所ですよ。こうして土蔵の中にお

ける、お繁と日兆の奇怪な生活がはじまったのですが、ここでお繁にひとつの誤算があっ

た。それは、日兆が思ったほど、馬鹿でなかったということです。お繁はかれの異常さを

利用していた。日兆ならかなり並み外れた言動でも疑われずにすむ。そこを利用していた

のですが、その異常さが、今度はお繁を裏切ったんです。日兆はお繁を自分のものにする

ことが出来たが、決して心を許していなかった。だから、土蔵を出ていくときには、いつ

も厳重に錠をおろして、お繁を中へ閉じこめていったんです。そして、この事がお繁の破

滅を招いたわけです」

 金田一耕助の話はそれで終わった。しばらく一同は黙然として、めいめいの視線のさき

を眺めていた。誰もかれも、口を利くさえ大儀なようにみえた。

「お繁はいったい、あの日兆をどうするつもりだったろう」

 しばらくして、ボソリとそういったのは村井刑事であった。金田一耕助はそれに対し

て、出来るだけさりげない調子でこたえたが、それでも、声のふるえるのを抑えることが

出来なかった。

「どうせ、ただではおかなかったでしょうね。今度の事件のほとぼりがさめたころ、坊主

頭の屍骸がひとつ、またどこかで、見付かるという寸法だったでしょう。それではじめ

て、お繁は枕を高くして、新生活へ入れるわけですからね」

 それから、かれは署長をふりかえって訊ねた。

「ところで、あの日兆はどうしました?」

 署長はそれをきくと、ものうげに首を左右にふって、

「どうもいけません。昨日、署まで来てから、騙だまされたことに気がついたのですね。

にわかにあばれ出したそうで、みんなで寄ってたかって取り止めようとすると、急に泡を

ふいてひっくりかえって……ひとつには、お繁との奇怪な恋の生活が、つよく影響してい

るんでしょう。意識は取り戻しましたが、当分正気にかえることは、むつかしいだろうと

いう話です」

 一同はそこでまたほっと暗いため息をついて、長いあいだ黙りこくっていたが、その

重っくるしい空気を弾きとばすように、元気な声で口を切ったのは風間であった。

「いや、陰惨な事件で、すっかり気が滅入っちまいました。ひとつ悪魔払いに、熱いやつ

をいいつけましょう」

 そして、かれは手を鳴らした。


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