結尾
さて、このドス黒い記録を閉ずるに当たって、私は最後にもう一度、金田一耕助からの
手紙を掲げることにする。
Yさん、結局この事件も、あなたのおっしゃる「顔のない屍体」の公式を、大して外れ
ているわけじゃなかったのですが、そこへ一人二役という、別のトリックがからんで来た
から、事件が複雑になったのです。あなたはいつかおっしゃった。一人二役は最後まで、
伏せておくべきトリックであって、それを読者に看破されたら作者の負けであると。その
事は小説のみならず、実際の事件の場合でもそうでした。あの鮎子という女が、お繁の二
役であるということを、私が見破った刹那、お繁は完全に敗北したのです。ところでYさ
ん、あなたはこの一人二役を見破ることが出来ましたか。(後略)
私は正直にいうが、見破ることが出来なかった。読者諸君はいかに?
本書中には、今日の人権擁護の見地に照らして、不当・不適切と思われる語句や表現がありますが、作品発表時の時代的背
景と文学性を考え合わせ、著作権継承者の了解を得た上で、一部を編集部の責任において改めるにとどめました。(平成
八年九月)