「それからあなたですね。お年は?」
「十九」
「ほかに御兄弟は?」
「ありません」
「そうすると御家族は三人ですね。ほかに執事だとか家令だとかいうひとは?」
「以前はそういうひともいましたが、いまはそんな時代ではありませんから……でも、ほ
かに三人いることはいます」
「どういうひとたちですか」
「ひとりは信し乃のといって、母が新宮家からうちへお嫁にくるとき、いっしょについて
きて、そのままいついた婆あやで、年は六十二、三でしょうか、いまではこのひとがお家
の切りもりをしています」
「しっかり者と見えますね」
「はあ、とても。いまでも母を子供のように思っていて、決して奥様とは呼ばないんで
す。 子さまとかお嬢さまとか呼ぶんですが、母にはまたそれがとても嬉うれしいらしいん
です」
美禰子のことばに皮肉なひびきがこもっているのを、耕助はわざと聞き流して、
「で、あとのふたりというのは?」
「ひとりは三島東太郎といって、年齢は二十三、四でしょうか。なんでも父の独身時代の
友人の子供さんだそうで、去年の秋復員してきて、いくところがないので父を頼ってきた
んですが、とても重宝なひとですから。……」
「重宝というのは……?」
美禰子はちょっと顔をあからめて、
「先生はあたしたちがいまどうして生活しているか御存じでしょう。みんな売り食いです
わ。ところがそういうことになると、あたしたち全然だめなんです。悪い商人に足あし下
もとを見られたりして……ところが三島さんが出入りをするようになってから、それがう
まくいくようになったんです。このひと、そんなことが、とても上手なんですわ。それに
食糧の買い出し……そういうことがございますので、とうとう家へきていただくことにし
たんです」
「若いのに感心ですな。で、もうひとりは?」
「女中で種たねといいます。二十三か四ですが、あたしよりは綺麗です」
金田一耕助はそういう皮肉を黙殺して、
「すると以上六人が椿家のひとたちですね。で、あとの二家族というのは?」
「別棟のほうに新宮の一家がいます。五月の大空襲に焼け出されてから、ずっとうちにい
るんです。伯お父じの利彦は父とおないどしの四十三、家族は伯お母ばの華はな子こ、ひ
とり息子の一彦、伯母の年齢は存じませんがいとこは二十一です」
「三人きりですか。女中さんは……?」
「女中など使える身分ではございません」
美禰子はせせら笑うようにいったが、すぐ、自分のはしたなさに気がついたのか、うす
く頰をそめてうつむいた。しかしまた顔をあげると、挑むような眼で耕助を見ながら、
「先生、こうなったら何もかもさらけ出した方がよいと思います。伯父は焼け出される前
からとても生活に困っていて、始終母のところへ無心にきていたんです。伯父というひと
はおそらくいままで自分で働いてお金を儲もうけたということは一度もないでしょう。な
まけ者のくせにとても贅ぜい沢たくで道楽者なんです。伯父の考えかたによると、世間の
ひとは誰でも伯父に貢ぐ義務があり、自分は働かずに贅沢をする特権があると思っている
らしいんです」