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第六章 笛鳴りぬ(7)_悪魔が来りて笛を吹く(恶魔吹着笛子来)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 金田一耕助は菊江という女を、興味ふかく見まもった。

 まえにもいったとおり、菊江は瘦やせぎすで、姿のよい女である。それは肉体美とは反

対に、骨体美ともいうべきものであった。それでいてどぎついほど性的魅力に溢あふれて

いるのは、たくみなゼスチュアのせいだろう。美禰子がいつも、いかつい、おこったよう

な顔をしているのに反して、菊江はいつもにやにやと、ひとを食ったような微笑をうかべ

ている。

 眼の大きい、頰骨のすこしとがった、ルージュの濃い女である。こういうのをアプレと

いうのであろうかと、金田一耕助は思った。

 美禰子はしばらく怒りにふるえながら、菊江の顔をにらんでいたが、急にくるりと一彦

のほうへむきなおると、

「一彦さん、みなさん、どうなすって?」

 だが、その一彦がこたえるまえに、菊江が横からひきとった。

「占いはもうお取りやめなんですって。だってお母さまがヒステリーをお起こしになっ

て、たいへんだったのよ。それで一彦さんのお母さんとお信乃さんが付き添って、お部屋

へおひきとりになったわ。目賀先生の注射で、やっとすこしは治まったけど、目賀先生は

きっと今夜もお泊まりよ。お母さまのお守りにね」

 菊江のことばの調子には、悪意というほどではないにしても、皮肉なひびきがこもって

いる。美禰子はそれを聞くと屈辱のために真まつ赧かになった。

 菊江はあいかわらずにやにやしながら、

「それで、一彦さんのお父さんは、ぶりぶりしながら御自分のお住居へおひきとりになる

し、うちの御前は御前で、急に酒を飲むといい出すし。……あのひと、血圧が高いから、

酒は医者からとめられてんのよ。だけど、あたし面倒くさいから放ってあるの。とにか

く、なにがなんだかさっぱりわけがわからないわ。何をみんな、あんなにびくびくしてん

のよ。美禰子さん」

 そうなのだ。いったい何がそのように、あのひとたちを動揺させるのか。……

 美禰子は憤怒にもゆる眼で、菊江の顔をにらんでいたが、やがて肩をそびやかして、そ

のまま部屋を出ていこうとした。しかし、すぐ気がついたように、ドアのところで立ちど

まると、金田一耕助のほうをふりかえって、

「先生、すみません。あたし母を看みてあげねばなりませんの。失礼ですけれど、今夜は

このままお引きとりになって」

「ああ、いいですとも」

 耕助は気軽にいったものの、いささか失望を感じずにはいられなかった。かれはもうし

ばらくここに踏みとどまって、この興味ある一族を観察したかったのである。

 ところが、いざ、かれがかえるという間際になって、ちょっとおかしなことが起こっ

た。しかも、後になって考えると、このことが非常に大きな意味を持っていたのだ。

 金田一耕助がきょろきょろと、応接室のなかを見まわしているのを見て、

「先生、なにか大切なものでもおなくしになって?」

 と、菊江がからかうように訊たずねた。

「ぼ、帽子……ぼ、ぼ、ぼく、帽子、どこへやったかしら」

「ああ、お帽子……お帽子ならたしか、占い部屋のまえでお置きになったわ。あたし、

取ってまいりましょう」

「いいです。いいです。ぼく、取って来ます」

 そこで四人そろって占い部屋のまえまでくると、帽子は果たしてそこにあった。

 さっき耕助は、くらがりのなかで何気なくおいたので、気がつかなかったけれど、それ

はとても妙なところにおいてあった。


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