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第八章 風神雷神(2)_悪魔が来りて笛を吹く(恶魔吹着笛子来)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「たとえばですな。犯人は部屋を出るまえに、掛け金と閂かんぬきに紐ひもをゆわえつけ

ておく。そして、その紐の端を窓から外へほうり出しておくんです。それから外へ出ると

扉をしめ、廊下にある台にあがって、まるで魚釣りでもするように、上手に紐をあやつっ

て、掛け金をおろし、閂をはめる。それから更に上手に紐をあやつって、掛け金や閂にゆ

わえてつけてある端をはずす。つまりはじめから、そういうふうにゆわえつけてあるんで

すな。うまく外れましたらお慰み……と、ばかりに紐を手て許もとにひいて窓をしめてお

く。こうしてまんまと密室の殺人事件が出来あがる。……」

 得々として密室殺人の講義をしていた耕助は、突然、怒りにみちた声によって妨げられ

た。

「ば、ば、馬鹿な。そ、そ、そんな馬鹿なことが!」

 びっくりしてふりかえると目賀博士であった。博士は怒りにみちた蟇がまのように、凶

暴な眼をギラギラ光らせ、

「犯人はなんだってそんなややこしい真ま似ねをするんだ。この部屋になかから締まりが

してあろうがなかろうが、人殺しがあったことにゃ変わりゃせん。なんじゃ、紐を使って

掛け金をおろす? 閂をはめる? 子供だましみたいなことはええ加減にしとけ。なるほ

ど、あんたの話をきいてると、いかにもうまくいきそうじゃが、さて、ひとつ、あんた

やって見なされ。どんなに手間のかかる、ややこしい仕事だか……金田一さんや、まあ、

お聞き。犯人はな、いっときも早くこの場から逃げ出したいんですぞ。いつなんどき、誰

がくるか知れたもんじゃない場合ですぞ。それになんじゃ、うまく外れましたらお慰みィ

……馬鹿もええ加減にしときなされ」

 よほど肚はらにすえかねたと見えて、目賀博士はあの特徴のあるガニ股またで、よちよ

ち部屋のなかを歩きまわりながら、唾つばをとばして耕助にくってかかる。耕助はにやに

や笑い出した。

 目賀博士はまた凶暴な眼を光らせて、

「なんじゃ、なんじゃ。何がおかしい。おまえさんの笑うているのは、わしのいうこと

か。それとも、わしのガニ股がおかしいのか」

 耕助はとうとうぷっと吹き出した。

「あっはっは、いや、先生、失礼しました。ぼくも先生の説に絶対に賛成ですな」

「何を!」

「いや、先生のお説に賛成であると申し上げているんですよ。ただね、ここにいらっしゃ

る警部さんが、あまり不思議だ不思議だというもんだから、こういうやりかたもあると、

ちょっとウンチクのあるところをひけらかしていたんです。つまり可能性の問題ですな。

しかし、ポシビリティーはあるとしても、プロバビリティーの点では先生のおっしゃると

おり薄そうですな」

「なんじゃ、そのポシビリティーだのプロバビリティーちゅうのは? 詭き弁べんでひと

を瞞まん着ちやくするのはよしなされ」

「つまり、そういうことが出来るとしても、この事件でそれが行なわれたかどうかは、疑

わしいと申し上げているんですよ」

「当たりまえじゃ、そんなこと」

 目賀博士がぶつくさいっているのを耳にもかけず、

「第一、この事件では現場を密閉しておく必要は少しもなさそうですからな。被害者の死

に方が自殺か他殺かまぎらわしいような場合には、現場を密閉しておくことによって、自

殺らしく見せかけることもできる。しかし、この事件じゃ他殺たること一目瞭りよう然ぜ

んですからな。何も犯人が骨を折って、危険を冒おかしてまで、現場を密閉しておく必要

は少しもなかった」

「しかし、金田一さん」

 と、警部が不満らしく口をはさんだ。


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11/28 21:47