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第十九章 淡路島山(2)_悪魔が来りて笛を吹く(恶魔吹着笛子来)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「作造さん、そのほかに何かそのひとのいったことで、おぼえていることはありません

か」

「へえ、わたしが釜口村までの道を教えたげたら、その小井までいくには、どれくらい時

間がかかるかと聞かはりました。それで、長浜から岩屋まで歩いて二十分、岩屋でバスを

待つ時間を二十分と見て、岩屋から小井までが四十分だすさかいに、だいたい一時間と二

十分、まあ、一時間半とみといたらよろしおますやろというと、そのかたしばらく考えて

はりましたが、それではすまんが四時ごろまでには長浜へかえってくるさかいに、もう一

ぺん迎えに来てくれんかいわはりますねん。それで……」

「ああ、ちょっと待ってください。作造さんがそのひとを乗せたのは、何時ごろのことで

した」

「十時ちょっと過ぎだっしゃろ」

「長浜へ着いたのは……?」

「十一時まえだしたな。ええあんばいに海が凪ないでましたさかい。わたしらの村から長

浜まで、三十分くらいのもんだすねん」

 長浜へ着いた時刻を十一時と見て、そこから小井まで一時間半、それから尼寺へ行くま

での時間を三十分と見て、一時には妙海尼に会える勘定である。さらに帰途に要する二時

間をさしひいても、一時間は話す時間があったろう。そして、一時間あればかなりいろん

なことが聞けたはずである。

「それで、作造さんは四時ごろ迎えにいったんですか」

「へえ、行きました。なにぶんにも、たんとお礼をくれはりましたさかい」

「それで、そのひとやって来たんだね」

「へえ、三時半ごろ長浜へいて待ってましたら、思たよりはよ来やはりました。それで、

かえりは明石の港へ入って、播淡汽船の桟橋へ舟を着けたげました。たぶん四時半ごろ

やったろ思います」

 港から山陽電鉄の明石駅まで約十分、明石から須磨寺まで三十分、須磨寺駅から宿まで

が十分だから、五時ごろにかえって来たというおすみの言葉にも間違いはない。

 最後に出川刑事が椿子爵の写真を出して見せると、作造はたしかにこのひとにちがいな

いと断言した。

 これでいよいよ椿子爵が、妙海尼をたずねて淡路へわたったことは、疑う余地がなく

なったが、そこでいったいどんなことを聞いてきたのか、四時ごろ長浜へかえってきたと

きの椿子爵の顔色は、作造の言葉によると、

「幽霊にでも逢おうて来やはったんやないかと思われるほど」

 悪かったそうである。……

 天気はいよいよ恢かい復ふくするらしく、低く垂れさがっていた雲が、しだいに吹きち

ぎられていくと、ところどころ青空さえ見えはじめた。それにしたがって、いままで陰い

ん鬱うつな鉛色をしていた海面も、しだいに明るさを増していく。

 やがて港口から連絡船が、舳へさきに白い波をあげながら入ってきた。待合室にいた連

中も、みんなぞろぞろ桟橋へおりてくる。

 連絡船は千鳥丸といって七十トンぐらい、港のなかでくるりと一回転したのち、ぴった

りと桟橋へ横着けになる。岩屋からの客は三十人くらいいたが、それが降りるのを待っ

て、桟橋にいた連中がどやどや乗りこむ。金田一耕助と出川刑事は、いちばん最後から乗

りこんだ。

 ふたりは船室へは入らず、甲板の柵さくにもたれて海を見ている。

 一同が乗りこんだあとからも五、六人、あわてて桟橋をかけておりてくる客があった

が、それらの客を乗せてしまうと、千鳥丸は出発する。


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