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第二十章 刺客(7)_悪魔が来りて笛を吹く(恶魔吹着笛子来)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335

 妙海はいったいなにを椿子爵に打ち明け、なにを知っていたために殺されたのだろう。

 金田一耕助と出川刑事は、なおもいろいろ慈道さんに聞いてみたが、慈道さんもいまま

で述べたところ以上にはかくべつこれという知識を持っていなかった。慈道さん以外に、

妙海が打ち明け話をするようなひとはないかと出川刑事は訊ねたが、わしに打ち明けぬく

らいのことを、ほかのものに洩もらすはずはないと慈道さんは打ち消した。

 それでも出川刑事は念のため、村中を駆けずりまわって訊ねてみたが、結局、慈道さん

より得た知識以上のものはなにひとつ得られなかった。

 こうしてその日、出川刑事と金田一耕助が岩屋へひきあげて来たのは、もう八時過ぎの

ことで、むろん明石への連絡もなく、ふたりはいやでも岩屋へ泊まらなければならなかっ

た。その代わりに岩屋ではつぎのようなことがわかった。

 小井で妙海尼のことを聞いた男は、やはり神戸から洲本へわたる船で来ているのであ

る。その男が洲本発の終発バスに間にあったのは、バスが洲本を出てから故障を起こし、

二十分ほど遅れたためであった。そのかわりかれは岩屋へ着いても、連絡船に間にあわ

ず、ひと晩、そこへ泊まっている。そして、今朝六時ごろ宿を出て、連絡船で明石へわ

たっているのである。宿帳には東京の住所と名前が記載してあったが、むろん出たら目に

きまっているので、金田一耕助は問題にもしなかった。

「ただ、問題というのはね、出川さん」

 と、金田一耕助は憂ゆう鬱うつそうな声でいった。

「そいつは昨日の二時半の連絡船で、神戸から洲本へわたっていることですよ。汽船の時

刻表を見ると、神戸と洲本をつなぐ連絡船はそのまえ、十時に出るやつがあります。それ

を利用したほうが、そいつの計画にとってはよほど好都合だったわけです。なぜって、そ

うすれば淡路へ一泊しなければならぬという、危険を冒おかさずにすみますからね、それ

にも拘かかわらず、十時のやつに乗らなかったというのは、すこぶる意味深長だとは思い

ませんか」

「意味深長というのは……?」

「つまり、朝の十時にはそいつはまだ神戸にいなかった。その後神戸へ着いた汽車でやっ

て来た。ということは、われわれと同じ列車で、東京からやって来たことを意味している

のではありますまいか」

 出川刑事はふいに大きく眼を見張った。

「それじゃ、あの列車に……」

「じゃないかと思うんです。そいつはわれわれのこちらでの調査の結果、いずれは妙海に

いきあたるってことを知っていたんですね。それで同じ列車で西下すると、われわれが須

磨寺でまごまごしているあいだに、まっすぐに淡路へわたり、妙海を殺してしまった。そ

して、今朝はやく島を脱出すると、月見山へよって石いし燈どう籠ろうの文字を消し、そ

れから神戸のミナト・ハウスへよったという順序じゃありませんか」

「ミナト・ハウスへよったというのは……?」

「妙海に対すると同じ目的だったのじゃありませんかね。おたまがいたら呼び出し

……」

 出川刑事はまた大きく眼を見張った。

「金田一さん!」

 と、息をはずませ、

「もしそうだとすると、われわれはこんなところでぐずぐずしてる場合じゃありません

ね。もしもおたまの身に……」

「そうです。そうです。だからぼくもさっきから、じりじりする思いなんです。しかし、

まあ、おたまがミナト・ハウスから姿を消していたというのは、考えようによってはわれ

われにとって幸運だったわけです。そいつだって、一朝一夕に、おたまの居場所をさがし

出すわけにはいきますまいからね。今度はどちらがさきに、おたまのもとへ辿たどりつく

……それが、この事件の勝負どころになるんじゃないでしょうか」

「ようし、それじゃ、明日はいちばんの連絡船で明石へわたりましょう」

 しかし、事実はなかなかそういう訳にはいかなかった。岩屋署との打ち合わせやなんか

に手間どって、ふたりが連絡船へのったのはもう十時を過ぎていた。

 出川刑事は明石からそのまま神戸へ直行したが、金田一耕助は須磨寺でわかれて、いっ

たん三春園へひきあげて来た。

 ところが耕助が三春園の敷居をまたぐかまたがぬうちに、奥からおかみがとんで来て、

「あっ、金田一さん、お客さんだす。さっきからお待ちかねで……」

「お客さん……? どなた……?」

「県の警察のかたやいう話だす」

「県の警察のひと……?」

 金田一耕助があわてて座敷へ入っていくと、四十前後の男が居ずまいを直して、

「ああ、あなたが金田一先生ですか。出川君というひとはどうしましたか」

「出川君は神戸へいきましたが……あなたは……?」

 男は県の警察の肩書きの入った名刺を見せた。警部補だった。

「じつは今朝ほど、東京の警視庁から電話がありまして、すぐこちらへ連絡してほしいと

いうことだったものですから……」

「東京から……そ、そして、いったいどういう用事なんです」

 警部補はあたりを見まわして、声を落とすと、

「東京の椿子爵邸でまた人殺しがあったそうです」

 耕助は無言のまま大きく眼を見張る。咽の喉どが焼けつく感じだった。

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