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睡れる花嫁 八 (3)_人面瘡(人面疮)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「そうです、そうです。きっとどこかに、バーの売り物があるとかなんとか持ちかけたん

でしょう。それで六百万円を持ってきたとき、ふたりで殺して死体を隠した。しかし、そ

れきり樋口が行方不明になっては、どういうところから自分の店へ糸をたぐってくるかも

しれないと恐れたんでしょう。ところが、ちょうどさいわい、朝子という女が亡くなった

ので……」

「死体を盗みにいったのは……?」

「これはマダムでしょう。胃痙攣と称して離れへひっこみ……」

「そして、死体にいたずらしたのは……」

 等々力警部と金田一耕助は、顔見合せて、ゾクリと体をふるわせた。

「ねえ、警部さん」

 しばらくたって、金田一耕助は世にも切ない表情を示した。

「清水浩吉はこれが最初の経験ではないんじゃないかと疑うんです。四年まえの事件のと

き、彼はもっとはやく瞳の死体を知っていたのじゃないか。そして樋口の留守中に……満

十三歳といえば、そろそろですからね」

 等々力警部は啞あ然ぜんとして耕助の顔を見つめていたが、急につめたい汗が吹き出す

のを感じた。

「しかし、金田一さん、由美子はなぜ……? 浩吉のゆがんだ興味から……?」

「いや、それはきっと何かあるんでしょう。由美子に何か覚さとられたんじゃないか。し

げるが男であることを知られたか、それとも樋口の殺害か……」

 等々力警部は二、三度強くうなずくと、

「樋口の跛……由美子のようなぼんやりが気がついているのに、眼から鼻へ抜けるような

マダムとしげるが気がつかなかったというのは……あのとき、へんだと思わなきゃいけな

かったんだな」

 と、きっと唇をかみしめた。

「さて、こうして、ふたりまでブルー・テープの女が槍やり玉だまにあがったとすると、

しげるはもうわれわれのまえへ出られませんよ。疑われないまでも、強く注目されますか

らね。いくらうまく化けていても、女装の男という不自然さがありますからね。そこで姿

をくらましたが、くらましたきりじゃ、疑いを招くおそれがあるので、だれか同じ年ごろ

の、体つきの似た女を、替え玉につかったんですね」

「だから、顔をめちゃめちゃにしておいたのか」

 等々力警部は溜息をつき、それからまた激しく体をふるわせた。

 考えてみると清水浩吉はまだ十七歳。女装しやすい年齢だが、それにしても十七歳の少

年が……。

「どうして知り合ったのか知りませんが、三十年とし増まと十七歳の美少年、そのゆがん

で、ただれた愛欲が、こんないまわしい事件に発展していったんですね」

 金田一耕助はゆっくり立ち上がると、ポケットから手帳を出して、その一頁を破りとる

と、それを警部のほうへ押しやった。

「ここに清水浩吉のいまいる、アパートの所書きがあります。ぼくもちょっとかいま見て

きましたけれど、髪を七三に分け、鼈甲ぶちの眼鏡なんかかけて、すっかり男に返ってい

ますが、しげるに違いないようです。はやくなさらないと、ブルー・テープに買い手がつ

いたようですから、ふたりで高飛びするんじゃないでしょうか」

 金田一耕助は出ていきかけたが、思い出したようにドアのところで立ち止まると、

「それから、去年の十二月二十日前後に失しつ踪そうした女を、もう一度お調べになるん

ですね。マンホールの女の死体……いや、こんなことは、ぼくが申すまでもありません

が……ご成功を祈ります」

 金田一耕助はかるく頭をさげると飄ひよう々ひようとして、寒風の吹きすさぶ街頭へと

出ていった。


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11/28 15:51