実際、金田一耕助はその青年を見た刹せつ那な、まずその体格のみごとなのにおどろい
た。身長はおそらく五尺八寸……あるいは九寸あるかもしれない。肩幅もそれに比例して
ひろく、胸もあつくがっちりしている。容よう貌ぼうはとりたてていうほどではないが、
色が白いのでとくをしている。まず、感じは悪くないほうである。それが浩一郎だった。
浩一郎は刑事に手をとられて、奥へはいってきた刹那、由紀子の死体に眼をやって、ぎ
くっとしたように一歩しりぞいた。しかし、すぐ気がついたように合掌すると、ちょっと
のあいだ眼をつむっていた。
金田一耕助はそのときの浩一郎の表情にひどく興味をおぼえた。なんだか観念したとい
うふうに見えたからである。
「北神君、三日の晩、きみは一歩も水車小屋を出なかったと、きのういったね」
「はっ、そう申しました」
そういってから浩一郎は、いそいであとをつけたした。
「もっとも、そのあいだ半時間ほど、カーテンの奥へはいってうたた寝をいたしましたけ
ん、外からのぞいただけではいなかったように見えたかもしれませんが……」
金田一耕助はそれを聞くとにっこり笑い、うれしそうにもじゃもじゃ頭をかきまわそう
として、気がついてあわててやめると、ごくりと生つばをのみこんだ。
磯川警部はそのようすをちらりと見て、不安そうに眉をひそめたが、それでも浩一郎の
ほうにむかって、
「ところがここにちょっと妙なことがあるんだよ。あの晩、水車小屋のすぐちかくで、由
紀子君の姿を見たというもんがあるんだが……それでもきみは由紀子に会わなかったとい
うんかね」
そのとたん、浩一郎の顔面から、血の気がひいていくのがはっきり見えた。握りしめた
両手がかすかにふるえたようである。
「そのひと、由紀ちゃんが小屋のなかへはいるのを見たというんですか」
「いや、そこまで見たというわけじゃないが……」
「それじゃ、由紀ちゃん、水車小屋へこなかったんです。それともぼくの姿が見えなかっ
たんで……さっきもいうとおり、ぼく、カーテンの奥で寝てたんですが、それに気がつか
んで行きすぎたんかもしれません。とにかく、ぼくは会わんかったんです」
だが、そういう浩一郎の額には、びっしょりと汗がうかんでいる。
「北神君」
金田一耕助が横合いから口を出した。
「あんたもしや、水車小屋をあけていたんじゃありませんか。由紀子君がやってきた時
分……」
浩一郎の顔色がまたかわった。かれはなにかいおうとしてことばにつまったが、すぐ
きっぱりとした態度で、
「いいえ、ぜったいにそんなことはありません。ぼくずうっと水車小屋におりましたんで
す」
「しかし、そうするときみの立場は非常に不利になりますよ。いまのところ由紀子君は水
車小屋で殺されて、それから、あの湖水に沈められたということになっているんですか
ら……」
「しかし、ぼくはあの晩、ぜったいに由紀ちゃんに会わなかったんです。ぼくは第一、由
紀ちゃんが、あの晩、水車小屋へくるなんて、夢にも思うとらなんだんです。ぼくたち、
そんな変な会い方せんでも、いくらでも、正々堂々と会えるんです。結納もすんで、この
村の祭りがすんだら婚礼するちゅうことは、村じゅうのもんがみな知ってるんですから」
浩一郎のことばにも一理はある。
「北神君」
と、こんどは磯川警部が、
「その水車小屋に直径八寸くらいの石いし臼うすがあったのを、きみは知っているだろ
う。三日の晩、その石臼があそこにあったかどうかおぼえておらんかね」
「おぼえておりません」
浩一郎は言下に答えたものの、すぐそのあとで、ちょっとあわてて考えるふうをする
と、
「あれはちかごろ灰落としがわりに使われておりますが、ぼく、たばこを吸わんもんです
けん」
「北神君」
と、こんどは金田一耕助。
「さっき刑事さんが呼びに行ったとき、どこにいましたか」
「はっ、家へかえって俵をあみかけておりました。湖水のほうで捜索のお手つだいをして
おりましたところ、死体が見つかったちゅうことを聞いたもんですけん」
「しかし、それはちと妙じゃありませんか。だって、由紀子君はきみのいいなずけでしょ
う。ちかく婚礼することになっていたひとでしょう。そのひとの死体が見つかったときけ
ば、すぐここへとんでくるなり、由紀子君のうちへ行くなり、しなければならんはずだと
思いますがね。それとも、死んでしまえばもう用はないというわけですか」
「いえ、いえ、……それは、御子柴のうちへ行こうと思うたんですが、ぼくとしても
ショックが大きかったもんですから……」
「なるほど、なるほど。そういえばそれもそうですね。ところできみはあのことを知って
ましたか。ほら、義眼のこと……」
「いいえ、ぼく、知らなんだんです」
と、なにげなく答えてから、突然、浩一郎ははじかれたように顔をあげると、真正面か 分享到: