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湖泥 八 (1)_人面瘡(人面疮)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 ところが、そのつぎの日になって、事件は意外な方向へ展開していき、その結果、金田

一耕助が明快な推理によって、さしもにもつれにもつれたこの事件を、一挙に解決するは

こびになったのである。

 その日も朝寝坊をして、磯川警部においてけぼりをくらった金田一耕助が、正午過ぎ、

飄ひよう然ぜんとして湖畔の村へはいってくると、またなにか起こったらしいことが、こ

わばった村のひとたちの顔色から察することができた。

 そこで耕助が足をはやめて駐在所へやってくると、表にはまたいっぱいのひとだかりで

ある。それをわってなかへはいると、清水巡査がむつかしい顔をしている。

「清水さん、なにかまた……?」

 金田一耕助がたずねると、

「はっ、由紀子を呼びだした偽手紙の筆者がわかりましたんで……」

「だれ、それは……?」

「西神家の康雄なんで……」

「ああ、そう」

 金田一耕助は別におどろきもせず、かるくうなずいて奥へとおると、西神家の康雄があ

の偽手紙をつきつけられて、青白くなってふるえているところだった。

 磯川警部は金田一耕助の顔を見ると、

「ああ、金田一さん、よいところへおいでんさった。いまこの興味ある手紙の筆者康雄君

からおもしろい話を聞かせてもらおうと思うとるところじゃ。あんたもいっしょにお聞き

んさい」

「ああ、それは、それは……」

 金田一耕助が席につくのを待って、

「木村君、それではきみからきいてもらおうか。われわれはここで聞かせてもらうで」

「はっ、承知しました」

 木村刑事は康雄のほうにむきなおると、歯切れのいい調子で、

「西神君、この手紙の文字がきみの筆跡であることは、もう疑いの余地はないんだ。きみ

はかなりうまくかえているが、この程度じゃほんとうの筆跡をごま化すわけにゃあいか

ん。ところで、三日の晩のことだが……」

 と、木村刑事は開いた手帳に眼をおとして、

「きみは隣村の祭りへ行ってるが、八時半から十二時ごろまでのあいだ、きみの姿を見た

ものはひとりもないんだ。きみは四時ごろ隣村の親戚のうちへ行っている。そこでごちそ

うになったのち、お宮へ行って太鼓をたたいたり、接待所へ行って振舞酒を飲んだりして

いるが、八時半ごろになって、姿を消した。むこうの青年団の幹事が、きみにのど自慢に

出てもらおうと思うて、ずいぶん探したがどこにも見つからなかったと言うている。とこ

ろが、十二時ごろになってどこからともなく、青い顔してふらりとかえってくると、それ

からめちゃめちゃに酒を飲み出した。……と、これがわれわれの調べた三日の夜の動静だ

が、西神君、ひとつきみの弁明をきかせてもらおうじゃないか。八時半ごろから十二時ご

ろまで、きみはどこにいたんだい」

 あの薄暗い駐在所の奥のひと間である、ぴしぴしと木村刑事からきめつけられて、康雄

はいまにも泣きだしそうな顔色だった。

 西神家の康雄は北神家の浩一郎にくらべるとはるかに劣る。柄も小さく、色もくろく、

それにひねこびれて、どこか狡こう猾かつそうなところがある。

 なるほど、これでは由紀子が浩一郎をえらんだのもむりはない。

「ぼく……ぼく……」

 と、康雄は貧乏ゆすりをしながら洟はなをすすって、

「こんなことするつもりなかったんです。こんなことするの、いややいうたんです。それ

をあの奥さんに焚たきつけられて……みんなあの奥さんが悪いんや。あのひと、あんな怖

いひとやとは、ぼく知らなんだんです」

「奥さん……? 奥さんてだれのこと?」

「村長さんの奥さんですがな。あの奥さんがぼくを嗾けしかけよったんです」

 康雄はしゃくりあげるような声だったが、それを聞くと一座にさっと緊張の気がみな

ぎった。ここにはじめてこの事件における、秋子の役割が露出してきたのである。


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