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湖泥 八 (2)_人面瘡(人面疮)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 金田一耕助は磯川警部をふりかえってにっこり笑った。

「村長の奥さんが、きみにこんな偽手紙を書けいうたんかね」

「そうです、そうです。北の浩一郎に女とられて、指くわえてだまっとるやつがあるもん

か。それじゃ、御先祖にたいしても申しわけがあるまいがな。女ちゅうやつは一度征服し

てしもたらもうそれきりや。なんでもええけん、由紀子をものにしてしまえ……と、そう

奥さんがいうたんです」

 木村刑事はあきれたように、警部の顔をふりかえったが、すぐまた康雄のほうへむきな

おって、

「それできみはこんな偽手紙で、由紀子を水車小屋へ呼びよせて、むりやりに関係をつけ

ようとしたんやな」

「すみません」

 康雄は洟をすすって頭をさげた。

 それにたいして木村刑事がなにかいおうとするのを、金田一耕助が手でおさえて、

「ああ、ちょっと、康雄君」

「はあ……」

「しかし、その水車小屋には北神浩一郎がいるはずじゃありませんか。それをどうするつ

もりだったんです」

「浩一郎のやつは……浩一郎のやつは……奥さんがひきうけてくれることになったんで

す。あいつは……あいつは……」

 と、康雄は急に意地悪そうな眼をギラギラ光らせて、

「村長の奥さんと関係があったんです。あいつ……あいつ、村長の奥さんと間男しとった

んです!」

 金田一耕助はべつにおどろかなかったが、その瞬間、一同の体がぎくりと痙けい攣れん

した。一瞬、しいんとした沈黙がおもっくるしく部屋のなかにおちこんできた。

 これで秋子の役割が、いよいよ明めい瞭りようになってきたのである。

 磯川警部は机の上に体をのりだし、ぎこちなくから咳せきをすると、

「康雄君、それ、ほんとうだろうね。でたらめじゃあるまいね」

「ほんとうです。ぼく、うそなんかいわんです」

「きみ、まえからそのことを知っとったのか」

「いいえ、ちっとも知らなかったんです。あいつら、よっぽどうまくやっとったにちがい

ありません。ぼくも奥さんから打ち明け話をきいたときには、あんまりびっくりして、

ひっくりかえりそうになったんです。浩一郎のやつ、模範青年やなんて、猫かぶってや

がって……」

「それじゃ、村長の細君が自分でその話を打ち明けたのか」

「そうです、そうです。でも、それにはあの奥さん、もくろみがあったんです。つまり、

ぼくに由紀子を疵きずもんにさそちゅう。……だからそのあとで、こんなだいじなことを

打ち明けたんやから、おまえもわたしのいうとおりにせんと、ただではおかんと脅かされ

たときには、ぼく、もう怖うなってしもて……奥さん、浩一郎のやつが由紀子と結婚する

ちゅうんで、やきもちやいて、すっかりやけになっとったんです。ぼく、あのひとあんな

怖いひとやとは思わなんだんです」

「それでも、きみは奥さんの命令どおりにうごいたんだね」

「そら、ぼくだってくやしかったけん。……たとえ由紀子を自分のもんにできいでも、疵

もんにして、浩一郎のやつの鼻をあかせてやりたかったんです」

 金田一耕助は興味ぶかい眼で、康雄の顔を見まもっている。いかに先祖伝来の反目とは

いえ、これは常人の神経ではない。

「きみはこの手紙をだれにたのんで、由紀子にわたしたんだね」

「ぼく、知らんのです。この手紙は奥さんのまえで、奥さんのいうたとおり書いたんで

す。奥さんはそれを読みなおして封をすると、これはわたしが預かっとく。だれかにたの

んできっと由紀子にとどけさせるけん、おまえは由紀子よりひと足さきに、水車小屋へ行

て待ってろいうんです。だから、ぼく、奥さんがだれにたのんで由紀子にこの手紙わたさ

せたか、ちっとも知らんのです」

「奥さんは浩一郎をどうしたのかね」

「きっと自分の家へ呼びよせたんでしょう。あの晩は村長も女中も留守やし、どうせおそ

くなることはわかってるもんですけん、きっと思う存分うまいことしよったにちがいない

んです」

 康雄の顔色にまたくやしそうな色がうかぶ。それはどこか嫉しつ妬とぶかい御殿女中を

思わせるような表情だった。


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