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湖泥 八 (3)_人面瘡(人面疮)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335

「なるほど、わかった。それできみはあの晩、水車小屋で由紀子と逢おうたが、由紀子が

すなおにいうことを聞かんもんだから……」

 木村刑事がいいかけると、

「ちがいます、ちがいます。それがちごとるんです」

 と、康雄が躍起となって金切り声をあげた。

「ちごとるとはどうちごちょるんだ」

「それが、ちょっとおかしいんです。いや、とてもおかしいんです」

 と康雄は臆おく病びようそうな眼で、一同の顔を見まわしながら、

「こんなこというてもほんまにしてもらえるかどうかわからんですが、これ、正真正銘の

話なんです。いまから考えても狐きつねにつままれたような気持ちで……隣村を出るとき

は、ぼくもそのつもりやったんです。それで勇気をつけようと、お宮の振舞酒をコップに

二杯ほどあおったんです。へえ、それまでにも相当飲んどったんですが。……それから山

越えでこっちへ来ようとしたんですが、途中まで来ると、なんだか体がだるうて、だるう

て、それに眠うてしかたがのうなったんです。それがぼくには不思議なんで。……ぼく、

酒はそんなに弱いほうやないんです。相手があったら一升ぐらいは平気で飲めるんです。

それやのに、その晩にかぎって、眠うて、だるうてたまらんようになったんです。それで

道ばたの木の根に腰をおろして、ちょっと息を入れよう思うたんですが、いつの間にや眠

りこけてしもたんです。いえ、ほんまの話です。ほんまに眠ってしもたんです。こんなこ

というても、だれも信用してくれんちゅうことはわかっとりますが、これ、ほんまの話な

んです。ところが、もっと不思議なことがあるんです」

「もっと不思議なことちゅうのは……?」

「ぼくが腰をおろしたんは、道ばたの木の根やったんに、こんど眼がさめてみたら、林の

ずっと奥のほうの、草のなかに寝とったんです。だれかぼくの眠っとるあいだに、林の奥

へつれていったらしいんですが、それがだれだかぼくにもわからんのです」

 磯川警部をはじめとして、一同の顔色には疑いの色がふかかったが、金田一耕助だけ

は、いかにも興味ふかげに康雄の話をきいている。

「それで眼がさめてからどうしたのかね」

「ぼく、しばらくのあいだ、なにがなにやらわけがわからなんだです。だいいち、どこに

寝とるのか、それすら見当がつかんかったんです。それでも、そのうちに由紀子のことを

思い出したもんですけん、はっとして腕時計を見ると、なんと、もう十一時半になっとる

やありませんか。ぼく、びっくりしてとび起きると、林のなかをずいぶん迷うたあげく、

ようやくのことで道へ出て、それでも水車小屋へいってみたんです。そして、そっと窓か

らなかをのぞいてみると、浩一郎のやつがすましこんで米を搗いとるやありませんか。ぼ

く、もう阿房らしいやら、腹が立つやら、狐につままれたような気持ちで、また、隣村へ

ひきかえしたんです。なんだか頭が痛くてたまらんかったです」

「きみが水車小屋をのぞいたとき、由紀子の姿は見えなかったかね」

「いいえ、浩一郎のやつがひとりだけでした」

「そのとき、カーテンは開いてましたか。ほら、横になれるようになっているあの小部屋

の、南ナン京キン米まい袋のカーテン……」

 と、金田一耕助が口を出した。

「へえ、開いとりました。ぼく、由紀子がかくれておりはせんかと、注意してみたんで

す」

「いや、ありがとう」

 金田一耕助がひきさがると、こんどは磯川警部が、

「隣村へひきかえす途中、だれかに会わなかったかね」

「へえ、九ン十のやつがむこうから来るのんに会いましたが、ぼく、顔をあわせるとめん

どうやけん、林のなかにかくれてやりすごしたんです。九ン十のやつ、酔うてふらふらし

とりましたけん、気がつかなんだようです。あいつ振舞酒めあてに行きよったんです。あ

んなときでのうては、酔うほど酒も飲めんもんですから」


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