日语学习网
蜃気楼島の情熱 二(2)_人面瘡(人面疮)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「あっはっは、あいつも八字ひげなんか生やしているところは山師みたいだが、だいたい

がああいう男なんだ。それにいま、幸福の絶頂にあるんだな」

「ねえ、おじさん、あのひとアメリカ主義に反抗して、日本趣味に転向したということで

すが、それにしてはただひとつ忘れてるところがありますね」

「忘れてるって、どういうとこ?」

「日本じゃ、あれくらいの金持ちで、あのくらいの年輩になると、もう少し気取るもんで

すがね。ああフランクによろこびを表現しない。もっとも、おじさんだからそうなのかも

しれないけれど……」

「いや、誰にたいしてもああだよ。なにしろ変てこなうちを建てて、わかい細君をもって

有頂天になってるんだからね」

「なかなか愛妻家のようですね」

「ああ、舐なめるように可愛がるってのはあのことだね。それで最初の結婚のときも間違

いが起こったんだ」

 久保銀造はちょっと厳粛な顔をした。

「そのことですか。さっきあなたに話してもらうようにといってらしたのは……?」

「ああ、そう」

 銀造はちょっと暗い顔をして、

「あの男、かくすってことが出来ないらしいんだね。それで、こちらの連中もみんなしっ

てるんだが、最初の結婚の相手、イヴォンヌってフランス系のアメリカ人だったが、あい

つのことだから猛烈に惚れてね、イヴォンヌでなければ日も夜も明けないという状態だっ

たんだ。ところがわれわれはみんな知ってたんだが、イヴォンヌには結婚以前から、アメ

リカ人の情夫があって、結婚後もつづいていたんだね。だから、何か間違いがなければよ

いがと、みんな心配してたところが、果たしてそのイヴォンヌが殺されたんだね。ベッド

のなかで」

 金田一耕助はちょっと呼吸をのんで、銀造の顔を見直した。銀造は渋い顔をして、

「なんでも絞め殺されたって話だが、それを発見したのがあの男さ。ところが、あいつそ

れをすぐに届けて出ればよかったのに。イヴォンヌ、なぜ死んだというわけなんだろう

ね。二、三日、死体といっしょに暮らしたんだ。ベッドをともにして。……つまり、死体

といっしょに寝たんだね」

 銀造は顔をしかめて、

「もっとも、悪戯はしなかったようだが。……イヴォンヌを手放すにしのびなかったんだ

ね。ところがそこを発見されたもんだから、てっきり犯人ということになったんだね。無

理もない、われわれでさえ、ひょっとすると……と、思ったくらいだから。妻の不貞を

しって、かっとして……と、そんなふうに思ったくらいだからな。ところが、あの男じし

んは頑強に否定したんだね。第一、妻が不貞を働いていたってことさえ知らなかったとい

うんだ。ところがあいつが犯人でないとすると、睨にらまれるのは情夫だが、このほうは

完全にアリバイがあったんだ。そのうちにあいつ当時まだあった検事のサード・ディグ

リーにひっかかって、身におぼえもないことを告白してしまったんだね。サード・ディグ

リーというのをおぼえてるだろう」

「一種の誘導訊問ですね」

「そうそう、あれは拷問にかわるもんだって、世論の反対にあってのちに禁止されたけ

ど、それにひっかかったんだね。それで、あやうく刑の宣告をうけようというどたん場に

なって、真犯人が自首して出たんだ」

「真犯人というのは……?」

「それが悪いことにやはり日本人でね。樋ひ上がみ四し郎ろうといってあいつの友人だっ

たんだ。これがイヴォンヌをくどくかなんかして、はねつけられたもんだから、ついかっ

として……と、いうわけだったらしい。志賀が潔白になったのはうれしかったが、真犯人

がやはり日本人だというんで、当時、われわれ肩身のせまい思いをしたもんだ」

「それで真犯人の樋上というのはどうなりました。電気椅い子すでしたか」

「いいや、電気椅子にはならなかった。自首して出たのと、それにそいつ、そう悪い人間

じゃなかったんだね。イヴォンヌに誘惑されて、それに乗って、いざという間際にはぐら

かされるかなんかして、それでかっとなったんだが、性質としては実直というより、いく

らかこう鈍なやつだったな。たしか二十年だったと思うが、その後、どうなったかしらな

い。わたしが内地へひきあげてきたときには、まだくらいこんでいたようだが……」

 夏の終わりといえばそろそろ颱たい風ふうの季節である。嵐でもくるのか、しだいに風

と波の音がたかくなってくる。欄干の外にはすっかり夜の闇やみが垂れこめて、ふたつ、

三つ、星のまたたく空には、雲脚が馬鹿にはやくなっていった。


分享到:

顶部
11/29 00:54