七
「いや、お待たせしたね。何しろこのとおりとりこんでいるもんだから」
およそ十五分ほど待たせて、やっと顔を見せたのは村松医師とその細君らしい五十前後
の中婆あさん、徹と田鶴子もうしろからついてきた。田鶴子をのぞいた三人は紋服姿で、
みんなじろじろうさんくさそうに金田一耕助の風采を見ている。
「あんたが金田一さんかね。じつはさっき徹から話をきいて、こちらからいこうかと思っ
ていたところだったんだ。あんた、けさ徹に義眼のことを訊いたそうだが、それはどうい
う……?」
村松医師は志賀泰三のまたいとこだということだが、なるほど、そういえばちょっと似
ている。眼の大きな、鼻のたかい、わかいときは相当の好男子だったろうと思われるが、
泰三とちがうところは、ひどく尊大にかまえていて高飛車である。
しかし、これは田舎の医者として、あとから身についた体臭ででもあろうか。
「はあ、あの、ちょっと……」
と、金田一耕助はわざと思わせぶりな口くち吻ぶりで、
「こちら、義眼について何かお間違いでも……?」
「いや、さっきお秋さんが云うたそうだが、亡くなった滋というのが義眼をはめてたん
だ、ところでさっきあんたから義眼の話が出たと、徹がかえっていうもんだから、ふしぎ
に思ってお棺かんの蓋ふたをとってみたところが、はたして滋の義眼がくりぬかれている
んだ。君、それについて何か心当たりのことでも……」
村松医師も、細君も、徹も、田鶴子も疑わしそうな眼で耕助の顔を見まもっている。
「なるほど、それでいつくりぬかれたか、お心当たりはございませんか」
「そうだねえ。滋の亡なき骸がらを納棺したのはきのうの夕刻のことだったが、そのとき
にはむろん義眼もちゃんとはまっていたよ。だからくりぬかれたとすると、それからあと
のことになるが……」
「すると、お通夜のあいだということになりますか」
「たぶんそういうことになるだろう。納棺したとはいうものの、蓋に釘くぎがうってあっ
たわけじゃあないからね」
「あなた、あなた」
と、そばから細君がじれったそうに、
「そんなこといってないで、このひとがなぜ義眼のことなんかいいだしたのか、それを聞
いてごらんになったら……」
「いや、奥さん、失礼しました。それじゃ、ぼくから申し上げましょう。じつは……そう
そう、沖の小島の奥さんが絞め殺されたってことは、徹君からもお聞きになったでしょ
う」
「はあ、それはさっき聞いた。みんなびっくりしてるところで……さっそく駆けつけな
きゃあいけないんだが、こっちもこのとおりのとりこみで……」
「いや、ごもっともです」
「で、義眼のことだが……?」
「はあ、それが、……絞め殺された奥さんの枕まくらもとに、義眼がひとつころがってい
たんです。まるで死体を見まもるようにね」
そのときの一同のおどろきかたはたしかに印象的だった。さすがに尊大ぶった村松医師
も、さっと顔が土色になり、田鶴子のごときは、
「あら、いやだ!」
と、さけんで畳につっぷしたくらいである。