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人面瘡 七(2)_人面瘡(人面疮)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「はあ、わたし、徴用解除になると、さっそく神戸へとんでいきました。ところが神戸へ

きてみると、案の定、由紀ちゃんにはちゃんと男ができているではありませんか。それが

いうまでもなく葉山譲治君でした」

 と、火傷の男は貞二君にチラリと一いち瞥べつをくれると、

「わたしはむろんなんどとなく、ひそかに由紀ちゃんを呼び出しました。もとどおりに

なってくれと歎たん願がんしたんです。由紀ちゃんはときどきはわたしに、その、許して

はくれたんです。その……体をですね。しかし、譲治君と別れようともしなかったんで

す」

「ああ、そう」

 と、磯川警部は貞二君をながしめに見ながら、

「それじゃ、由紀ちゃんは譲治君と関係をつづけながら、しかも、君とも肉体的関係を復

活していたというんですな」

「そうです、そうです。わたしのばあいは口止めという意味もあったんですが、やはり根

が多情だったんですね。しかも、そういう多情なところに男というものは心をひかれるん

です」

「ふむ、ふむ、それで……?」

「はあ、しかし、そうはいうもののわたしにとっては、そういう状態は耐えがたいことで

した。やっぱりはっきりじぶんのものにして、郷里へつれてかえりたかったんです。そこ

でわたしも決心しまして、譲治君とよく話しあうつもりで、葉山家へのりこんでいったん

です。いや、忍びこんだといったほうがよろしいでしょう。それが三月のあの大空襲の晩

でした」

 一同ははっとしたように眼を見交わせた。

 磯川警部はいよいよ膝をのりだして、

「それで……?」

「はあ……」

 と、さすがに田代も息をのみ、

「ところがどうでしょう。忍びこんだ譲治君の寝室は血みどろで、譲治君は朱あけにそ

まって死んでいる。いや、殺されていたんです。しかも、由紀ちゃんも胸にきずをうけ

て……」

「ああ!」

 松代はとつぜん恐ろしそうに身ぶるいをすると、

「いわないで……もうそれ以上いわないで……みんな、みんな、あたしのしたことなんで

すから……」

「いいえ」

 と、田代はあわれむように松代をみて、

「だから、ぼくは申上げなければならないんです。あれはあなたに責任のないことなんで

す。あれは由紀ちゃんのやったことなんです」

 貞二君ははじかれたように顔をあげた。そして嚙かみつきそうな眼で田代をにらむと、

「馬鹿なことをいうな。由紀子がなぜ……由紀子がなぜ譲治君を殺したというんだ」

「無理心中をはかったんですよ」

「無理心中……?」

「ええ、そう」

 と、田代は落着きはらった声で、

「これはあとで聞いたことですが、あのじぶん、ふたりの仲が葉山家や、由紀ちゃんの実

家にしれて、由紀ちゃんは岡山へつれもどされることになっていたんです。由紀ちゃんは

じぶんの魅力をしっておりますから、本来ならばつれもどされても驚かなかったでしょ

う。譲治君にあとを追わせるくらいの自信はもっていたでしょう。ところがいかんせん譲

治君は、徴用でしばられている体です。あのころの徴用といえば国家の至上命令ですか

ら、いかなる由紀ちゃんの魅力といえども、どうすることもできないわけです。そこで無

理心中をはかったわけですね」

「そこへ君がとびこんだというわけか」


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