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第三章 華麗なる殺人 一(3)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「ああ、そう、それじゃそういうことにおし。奥村君、すまないが奥さんをむこうへつれ

ていってくれたまえ」

「承知しました。それじゃ、奥さん」

「ママ、いっしょにいきましょう」

「はあ……」

 陽子とこのわかい継母とは、十五くらいはちがっているはずなのだが、ふたり並んでい

るところをみると、五つか六つのちがいにしか見えない。

 それは倭文子が若くみえるところへ、陽子が年齢よりいくらか老けて見えるせいでもあ

る。倭文子があくまで華奢で、繊細で、磨きあげた京おんなの美しさを誇っているのに反

して、陽子という娘は父に似て、がっちりとした体格をしており、骨盤などもひろかっ

た。容貌は十人並みというところで、倭文子などとはくらべようもなかったけれど、それ

でも若さからくる自然の魅力にあふれており、どちらかといえば人工的な倭文子の美しさ

とはよい対照である。

「陽子、それじゃママを頼んだよ」

「いいわ、あたしが介抱してあげる」

「陽子さま、すみません」

 奥村と陽子が左右から、倭文子をかかえるようにして出ていくうしろから、譲治と小娘

が怯えたように、そそくさと立ち去っていくのを見送ってから、慎吾は金田一耕助のほう

へむきなおった。

「金田一先生、ここでご紹介しておきましょう。こちら天坊邦武さん、辰人さんにとって

は母方の叔父君にあたるかたですね。それからこちらが柳町善衛さん、辰人さんの継母で

いらした加奈子さんの実弟でいらっしゃる。天坊さん、柳町さん」

「はあ」

「こちらが有名な金田一耕助先生」

「いや、どうも……はじめまして……」

 金田一耕助がペコリとモジャモジャ頭をさげると、

「有名な……と、いうと?」

 と、天坊元子爵はうさん臭そうに、金田一耕助をジロジロ見ながら眉をひそめた。

「ああ、天坊さんはご存じじゃありませんか。こちら、いろいろ調査ごとをなさるかた。

手っとりばやくいえば私立探偵。……」

「私立探偵……?」

 と、天坊元子爵はまた眼を見張った。

「それじゃ、篠崎君、君はこういう不祥事が起こるであろうということを、あらかじめ

しっていたのかね」

 天坊邦武はもうかれこれ六十くらいであろう。身長は五尺あるかなし、侏儒を連想させ

る短たん軀く肥満型のタイプで、もののみごとにはげあがって、つるつる光っている卵型

の頭と、鼻下にピンとはねあげた太い、いかめしい八字ひげが滑稽である。尊大な口のき

きかたも、べつに威張っているわけではなく、長年の習慣がそうさせるのであろう。

「とんでもない。金田一先生にきていただいたのは、ゆうべもみなさんにお話しした、真

野信也なる人物。……あのどこかへ消えてしまったという人物について、調査していただ

こうと思ったんですが、おりもおり、とんでもないことが持ち上がってしまって‥…」

 慎吾がかるく頭をさげたのは、そこにいる死者の親戚にたいして弔意を表したのであろ

う。

 どこかへ消えた真野信也の名前が出たとき、天坊邦武はするどく糸女の姿を見つめてい

たが、慎吾に弔意をのべられると、

「ああ、いや、どうも……」

 と、あわてて八字ひげをひねりながら、

「辰人もさんざんしたい三ざん昧まいのことをしてきたんだから、ここいらが年貢のおさ

めどきかもしれんな。あっはっは、いや、これはしたり。仏をまえにおいて、こんなこと

いっちゃいかんかな」

 言葉つきは尊大だが、その調子にはどこか慎吾におもねるようなところがあり、そこい

らに落魄した旧貴族の、卑屈さがかんじられないものでもない。


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