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第三章 華麗なる殺人 三(4)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「ああ、それ、さっきいった、わたしの中学時代以来の親友の風間俊六、浮浪児の譲治を

拾ってきた男ですね、その男土建屋として、まあ、中位の成功をしてるんですが、その男

と篠崎さん、篠崎慎吾氏とが、同気相求めるというのか、眼のよるところに玉がよるとい

うのか、昵じつ懇こんになったわけです。そういう関係でわたしもまえに、二、三度会っ

たことがあるんですね」

「なるほど、でも、先生がここへいらしてるというのは……? 先生だって、まさか、こ

んな事件が起ころうとは予測なさらなかったでしょう」

「それはもちろん。わたしがここへ来ているのは、金曜日の晩消えちまった男のことがご

ざいましょう。篠崎さんがそれに不安を感じて、わたしを呼びよせたというわけです。場

合が場合だけにね」

「場合が場合だけにとおっしゃると……?」

「ほら、土曜日には古館辰人氏や天坊邦武氏、柳町善衛さんがいらっしゃることになって

ただけにねえ」

「ああ、そうそう」

 井川老刑事は疑いぶかそうな眼つきをして、

「そのこってすがねえ。金田一先生、あの連中はどうしてここへやってきたんですい。こ

とに古館辰人なんどはここへ来られた義理じゃありませんぜ。自分を捨てた女房が、その

女房を自分から奪った男とよろしくやっているところへ、われわれならばなんの面目あっ

て、あいまみえんやというところですがねえ」

「いや、あれは篠崎さんが招待したんだそうですよ。理由はここもいよいよ、ホテルとし

て再出発することになったについて、そのまえに名琅荘に縁の深いかたがたに、ゆっくり

名残りを惜しんでいただこうというんだそうです。それともうひとつ、昭和五年の事件で

亡くなられたひとたちの二十一回忌が明後日だそうで、その法事の打ち合わせもやろうと

いうわけですね」

 田原警部補はまじまじと金田一耕助の顔を見つめて、

「金田一先生はまさかそれを、額面通りに受け取っていられるんじゃないでしょうねえ」

「額面通りに受け取っちゃいけませんかな」

「そ、そんなばかな! 自分が女房を奪った男と、その女房の娘時分に首ったけにほれて

た男を、一堂に集めるなんて悪趣味ですぜ。それとも篠崎慎吾という人物には、そんなお

センチなところがあるというんですかい」

 井川老刑事は昭和五年の事件について、よっぽど詳しい調査をしているらしい。倭文子

と柳町善衛の関係など、金田一耕助よりはるかに通つう暁ぎようしているようである。

「そうおっしゃれば、篠崎氏の性格としてはいささか妙ですね。しかし、刑事さん。いま

あなたのおっしゃった、女房の娘時分に首ったけだった男というのは、柳町善衛さんのこ

とですか」

「もちろん、そうですとも。金田一先生はあの男とげんざいのここの女主人と、九分九厘

まで縁談がまとまってたってこと、ご存じなかったんですかい」

「いいえ、知りませんでした。わたしゃ現在のご主人が名琅荘を手に入れたとき、風間か

らこの家にまつわる昔話を聞いて、ちょっと好奇心をもよおしましてね、図書館へいった

とき、ざっと当時の新聞記事をひっくりかえしてみた……と、その程度の知識しかないん

です。そこへいくと、刑事さんはずいぶん詳しく調査してらっしゃるようですね」

「そりゃもう……。なんたって、わが署の管轄区内に起こった、最大の事件だったんです

が、当時のこってすから、捜査上いろいろ上のほうから圧迫がありましてな。こっちはま

だ血の気の多い年ごろでしたから、なにをってハリキッたんですが、けっきょく泣く子と

地頭にゃ勝てねえ時代で、捜査打ち切りを申し渡されたときの悔しさったらありませんで

したね」

 なるほど、昭和五年といえばそういう時代だったかもしれぬと金田一耕助はうなずい

た。


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