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第四章 譲治とタマ子 一(2)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「タマ子君というのは……?」

「出目金みたいな眼をした、ちょっと可愛い女中でさあ。御隠居さんのお気に入りです

よ」

「タマ子君がなぜ片腕の男について、御隠居さんから叱られたんだね」

「ああ、ちょっと、主任さん」

 と、金田一耕助がそばからさえぎって、

「そのことについちゃ、タマ子君から直接おききになったらいかがです」

「ああ、そう。ではそうしましょう」

「ただ……譲治君、タマ子君はそのことを君に話したんだね。片腕の男について、御隠居

さんに叱られたってこと」

「ええ、ぼくたち仲好しだもんですから」

 譲治はまたあどけなくほほえんだ。この男は若い娘だとだれとでも、すぐ仲好しになる

のではないか。

「ところで……と」

 田原警部補は自分のメモに眼をおとして、

「その男を見てからこの別荘の正面玄関まで、馬車が着くまで何分くらいかかったかね」

「さあ、……五分か六分くらいじゃないでしょうか。金田一先生はよくご存じのはずで

す」

「それから君はどうした。すぐあの倉庫へ引き返していったのかい」

「いいえ、ぼく、金田一先生のお荷物をもってお座敷までお供して、しばらくお話しして

いたんです。金田一先生はぼくの恩人の、風間先生の親友ですから、ぼくも懐しかったん

です」

「君は何分くらい、金田一先生のお座敷にいたと思うかね」

「さあ、五分か六分ってとこじゃないでしょうか」

 その点、金田一耕助の記憶と一致していた。

「それから君はどうしたんだね」

「馬車をひいて倉庫へかえりました」

「その間、どのくらい時間がかかったと思うかね」

「五分はかかったでしょう」

「そうすると、君が雑木林のなかを走っていく、片腕の男を目撃してから、あの倉庫へ馬

車をひいていくまで、しめて十五、六分はかかったということになるね」

「はあ、たぶんそうだと思います」

 譲治の顔にはさすがに緊張の色が濃くなってきた。いよいよ質問が核心にふれてきたこ

とを知っているのであろう。

「そのとき倉庫のなかにあのひと……つまり古館さんがいて、そいつを君が殺して、あん

な悪戯いたずらをしたのかね」

 この残酷な質問に、譲治はおもわず椅子からとびあがりそうになった。顔が恐怖にひき

つった。

「そんなばかな……ぼく、あのひとに会ったこと、いままでいちどもなかったんです。そ

れは……噂うわさはいろいろ聞いてましたけどね」

「よし、それじゃ、そのときのことを詳しく話してみたまえ。君が馬車をひいて倉庫まで

かえっていくと……? そこになにがあったんだね」

「なにもありゃしませんでしたよ。いやだなあ、主任さんたら。あんまりひとを脅かさな

いでくださいよ。ぼく、いっぺんに汗が出ちゃった」

 じっさい譲治の額には、いっぱい汗が吹き出している。警部補の一いつ喝かつをくらっ

たとたん、汗腺がつよく刺激されて、急激な発汗作用が起こったらしいのである。この男

が犯人であろうという可能性は、ひじょうに薄いと思われる。警部補はただハッタリをき

かせたまでである。それにもかかわらず、その一言が急速に発汗作用を促進したとする

と、そこになにかあるのではないか。


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11/28 19:43